尼崎JR脱線事故から1年。共同通信から取材をうけた記事が中国新聞、京都新聞などに掲載されたので、共同通信からの許可を得て転載します。
わたしの提言 尼崎JR脱線事故1年 鉄道に公共投資増加を
鉄道に公共投資増加を
来日して37年になるが、自分で自動車を運転したのは3回だけ。日本のように鉄道網が発達した国で移動手段として車を使うのは、エネルギー効率や環境の面からも無駄だ。しかし道路に比べ、鉄道に投じられる公共投資は極端に少ない。
国鉄民営化は誤り
鉄道は公共交通として重要な役割を担っている。安全な鉄道網の維持は社会が責任を持つべきだが、政府・自民党は自動車や電気製品のような輸出産業の利益ばかりを考えていないか。予算配分も高速道路拡張や新空港の整備に集中している。
国鉄民営化は間違いだったと思う。米や英でも公共部門の民営化で失敗した例がある。JR西日本は(東日本などより財政基盤が弱く)利益偏重にならざるを得ず、脱線事故の遠因となった。
ある鉄道会社は、事故やトラブルを減らすには徹底した安全対策と社員教育が必要と話していたが、残念ながら完ぺきはあり得ない。利用者も含め、国や地域など周囲が鉄道会社(の対策)をしっかり監視しなければ。事故後に批判するのは容易だが、それまでJR西日本にきちんと注意を払っていたのだろうか。
社員の独立心養え
現場で働く社員間の情報共有も重要だ。わたしの会社には約七百人の社員がいるが、上司と部下の意思疎通は簡単ではない。JR西のように三万人を超える巨大組織ではなおさらだろう。だからこそ一人一人に対する安全教育の徹底が大事だ。
教育イコール命令と服従ではない。日本の教育は、家庭や学校も含めて命令に素直に従う「良い子」を生産するだけで、自立した個人を育てるという本来の教育ではない。脱線した電車に乗り合わせながら救助活動に参加しなかったり、事故当日の夜に宴会に行った社員たちも、独立心がないから上司の命令に従った。「自分の行動が正しいのか」と疑うこともなかったのだろう。
「会社は株主のもの」「株主への利益還元が経営者の務め」という米国流の考え方が広まりつつあるが、憂うべき事態だ。結果だけが重視され、日常の努力が報われない社会の中で、皆が誇りと自信を失っているようにも思える。かつて日本の美徳だった社会への責任感と、個人のモラルを取り戻す必要がある。