No.738 富の再配布のための改革

日本政府の抱える国および地方の債務残高は今年1,500兆円を突破し、普通国債の残高だけでも536兆円を超えた。

富の再配布のための改革

国家が歳入以上にお金を使うと財政赤字となる。国の歳入はほとんどが国民から徴収する税金であり、その年の一般会計歳出のうちの不足分を、政府は国債を発行して補てんしている。国債とはつまり借金であり、政府が、人にお金を貸すことができるくらい金持ちの個人や金融機関などからお金を借りるのである。1,050兆円とは、これらが毎年積み重なった赤字の総額である。

米国では1981年から大統領になったレーガンが、8年間で9,080億ドル(約91兆円)から88年には3倍の2.7兆ドル(約325兆円)に債務残高を増やし、その後の4年間でブッシュ(父)大統領がそれを4.5兆ドル(約540兆円)にした。クリントン政権で黒字になったものの、現ブッシュ大統領になってからは大幅減税を行って再び記録的な財政赤字となっており、このままの傾向が続けば2009年には10兆ドル(約1,100兆円)近くなると予測されている。

国が借金をしなければならない原因とは、まずは税収の不足である。現に米国でも日本でも、富裕層に対する税金や法人税を減税したことによって減った税収分を借金で賄っているのだ。しかし借金はいつか、利子を付けて返さなければいけない。借りた金額以上を支払うのだから、さらに借金は増えていく。

日本の18年度の国債費の内訳をみるとそれがはっきり分かる。償還費が10兆円で利払い費が8兆6,000億円、そして事務費が1,000億円となっている。借金の元金そのものが減らないのも当然である。では、借金の利子にあたる利払い費は誰の手に渡っているのかといえば国債を買った人だ。それは一般庶民ではなく、富裕層の個人や銀行や投資会社である。つまり減税という恩恵を受けている富裕層や企業が、政府にお金を貸すことでさらにもうかる仕組みになっている。国が借金を抱えるとどうなるのかというと、日米政府をみれば分かるように、赤字を理由に一般国民へのさまざまなサービスが削減される。財政赤字だから教育や医療、住宅に向ける予算がないというのが常とう句である。

政府が借金をすることは、つまり納税者である一般庶民から富裕層へ、下から上へ富の再配布が行われるということだ。投資先のない富を政府に貸し付けて利子を得ることは投資家にとって極めて都合がよい。高度経済成長の時代と違い過剰投資のリスクの大きな時代、少なくとも国家への貸付は割のよい投資先である。

米国の場合、さらに軍事費が財政赤字を大きく増やしている。ブッシュ大統領は2003年から2006年までにイラク戦争のために毎月約50億ドルを使っている。さらに会計の抜け道を利用した一般会計外の赤字も存在する。米国では名目上の民間企業、例えば農家に貸し付けをする会社を政府が設立して一般会計予算の枠外で借金をするとこれは国家債務には含まれない。しかしこの借金の返済は誰がするかといえば、納税者である一般国民なのである。

国家の借金を減らすための方法はある。まずは、現在富裕層や企業に与えられているさまざまな控除を大幅に減らすことである。そしてそれと同時に、富裕層をさらに富ませるだけで新たな雇用の創出になっていない大企業などへの補助金を削減する意味でも、所得税率、法人税率の累進性を高める。これだけでも大幅な税収の増加になる。

米国以上に長期債務残高の多い日本も、こうして同じように、下から上への富の再配布が行われている。また日本にも米国と同じように一般会計予算とは別に、国会での審議もなく決定される特別会計予算というものが存在する。何度かこの予算について調べたが、一般会計との重複分があったり正確な金額が把握できない、とにかく実態の分かりにくい存在で、国民に知らせないようにするためにわざと複雑にしているとしか思えないと感じたほどだ。

国を借金漬けにすることで、一般国民には「自己責任」という名のもとさまざまな福祉を切り捨てながら、国債の発行によって下から上へ富を再配布させてきた小泉構造改革。この4年間で小泉内閣は290兆円もの国債を発行したことを考えると、富の再配布のための改革だともいうことができるのである。