中東のイスラエルとレバノンの戦争は日本にもさまざまな影響を及ぼし始めている。特にエネルギー面においては、石油の8割以上を中東から輸入しているため、それも当然である。
語られない事実を知るべき
この発端はシーア派「武装組織」ヒズボラがイスラエル軍兵士を「拉致」し、イスラエルが「テロ容疑」で収監しているパレスチナ人らを釈放するよう要求したことから始まったというが、イスラエルとレバノンは国境付近の広範な地域で以前から交戦が起きていた。
日本の報道でレバノン側に「武装組織」「拉致」といった言葉が使われているのが気になる。日本には長い歴史があり、他国がその文化、伝統を理解しにくいということはそのまま中東に当てはまる。
ヒズボラはレバノンの合法的な組織であり、メンバーには国会議員も含まれている。そしてイスラエルやイスラエルを支援する米国のメディア報道ではあたかもテロリスト集団のように描くが、中東という戦場でイスラエル軍兵士は「拉致」されたのではなく、正確には「戦争捕虜」となったのである。国同士の衝突を公正に見るためにはレッテルを張ってはならない。メディアが「テロリスト」「武装組織」といった言葉を使うのは、事実を正確な描写しないことを意図しているように思う。
ヒズボラも、イスラエルの存在を認めない「ハマス」も、それぞれレバノンとパレスチナで合法的に国民に福祉や医療、教育を提供している組織でありテロリストではない。ハマスは確かに自爆テロと呼ばれる行動も行うが、中東の歴史をひもとけばそれだけで彼らをテロリストと呼ぶことが適切でないことはすぐ分かる。
しかし「テロとの戦い」という正義を振りかざす米国は、何としてでもイスラエルの敵をテロリストに仕立て上げたいようだ。イスラエルの存在を否定するハマスがパレスチナ議会の総選挙で圧勝して以来、米国政府はイスラエルとともにパレスチナに対して実質的に経済制裁を行い、対話も拒んできた。同じように米国はヒズボラとも、またテロの支援国とレッテルを張るシリアとイランとも対話をしない。友人と問題が生じたとき、対話をしなければ先に進まないように、国同士の外交もまずは対話というプロセスから始めるべきである。しかし対話どころか、米国はメディアを通して国民にイスラエルの敵を「テロ」「武装グループ」といったイメージを広めている。
中東の近代史は植民地支配の歴史である。イスラエルはパレスチナ人が住んでいた場所に建国された。当初、ユダヤ人の数はパレスチナ人の半分強だったが、「中東」は戦乱の絶えない地域となり、イスラエルの唯一の味方が米国で、実際巨額の援助を行っている。
日本の主流メディアの流すニュースの多くは米国の視点であるため、中東情勢の報道をみるときはそこで使われている言葉に気を付けるべきだ。そして、報道されないこと、例えばイスラエル兵が捕まる2日前には、パレスチナ民間人がイスラエル軍に捕らわれている、といったことだ。
中立的な組織の発表も参考にするべきだ。例えば国際的な人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、何千人ものパレスチナ人捕虜がイスラエルの刑務所で拷問を受けていると報告している。そしてヒズボラにシリアやイランが武器や資金援助をしているという報道をするなら、米国政府がこれまで1日当たり30億ドルに相当する兵器や爆弾、戦闘機などをイスラエルに贈ったことも同時に知らせるべきだ。
国連加盟国は192カ国あるが、最高意思決定機関である国連安全保障理事会はわずか5カ国からなり、意思決定の際五カ国のうち一国でも反対すれば決定はできない。そして米国はイスラエル関連の決議案において、ブッシュ政権下だけで6回も拒否権を行使した。イスラエル政府最大のスポンサーである米国政府は、膨大な財政援助と惜しみない武器供与、そして中東に暮らす人々に苦痛と悲劇をもたらす資金と手段を提供するだけでなく、メディア報道とそして国連などでイスラエルを守る役割を果たしている。
「テロとの戦い」を標榜する米国は1987年、国連総会で「国際テロリズムを予防する手段、テロリズムの背景にある政治経済的要因の研究、テロリズムを定義し、それを民族解放闘争と区別するための会議を開催する」という提案に反対した。反対はアメリカとイスラエルの2カ国だけだった。
中東の情勢に限らず、ニュースを見るときは使われている言葉に注意し、語られない事実があることを知っておくべきである。