No.750 喜んで内政干渉受け入れる国

出張で日本国内のさまざまな都市を訪れる機会がある。地元の商店街を歩くとシャッターが閉まり、昼間の時間帯なのに人通りもほとんど見られないことが多い。

喜んで内政干渉受け入れる国

今から十年ほど前、私は『日本はアメリカの属国ではない』という本を上梓した。読んでいただければ分かるが、私の主張はそのときからほとんど変わってはいない。当時の状況からして、私には日本政府の取っている政策が植民地が宗主国に対するもののように思えてならなかった。だからこそ、それを訴えることで人々に現状に気付いてほしかった。

地方都市を衰退させる結果となった大規模小売店舗法(大店法)の廃止は、米国が日本政府に送った規制緩和についての要望書によるものである。大店法は「消費者の利益の保護に配慮しつつ、大店舗の事業活動を調整することにより、その周辺の中小小売業者の事業活動の機会を適正に保護し、小売業の正常な発展を図ることを目的」として1973年に施行されたが、1998年に廃止が決まった。

文言にあるように大店法は、巨大企業が小規模小売店を支配し破壊することを防いでいた。そうすることで失業を防ぎ、そこから派生する貧困、犯罪、福祉援助金などを抑える働きをしていた。そしてそのような規制のない巨大企業に支配されている米国は、それらの問題を抱えていた。大店法という、健全な競争を保ちジャングルや戦争のような破壊的な競争を防ぐための規制が外された日本が、米国と同じ道をたどるのは時間の問題だった。

十年がたち、私は日本国籍を取り日本人として企業を経営しながらこの国で暮らすようになった。そして日本は、私が危惧(きぐ)していた道を歩みつつある。「官から民へ」「改革なくして成長なし」という、あらゆるものを民営化し規制を取り払った無制限で野放図な自由競争社会の行き着く先は、失業者の増大、貧困格差が拡大し、犯罪や自殺の増える不安定な社会である。いま日本の自殺者は8年連続で3万人を超える。交通事故死亡者よりもずっと多い数の人が自ら死を選ぶ国になってしまった。

1991年の湾岸戦争では日本は1兆3千億円もの戦費を拠出した。その間に日米新ガイドライン法、テロ対策特別措置法など着々と法整備がなされ、2003年には自衛隊をイラクに送り込み、米軍の後方支援に当たらせ、お金だけでなく日本国民の命も米国に差し出した。

劣化ウラン弾は、原爆や原子力発電用のウラン濃縮過程で出る廃棄物から作られた安い値段で高い効果のある兵器だ。それを受けたイラクではガンや白血病、先天性異常に苦しむ人が増えているが、大量に使った米軍兵士にも多くのがん患者、体調不良、生まれてきた子供の奇形などの異常がでている。イラクから戻った自衛隊員の中で同様の症状が出ることは十分考えられる。

おそらくこれからも日本は米国の要望書通りの政策を取り続けるだろう。昨年末、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」が米国から出された(在日米国大使館ホームページで日本語訳を読むことができる)。ここには、2001年から順調に日本市場を米国のために開放してきたことが記され、素晴らしい取り組みと賞賛されている。そして米国は新たに、または引き続き広範にわたる要求をしている。

医薬品分野では米国企業に販売や製造の公平な機会を与える/金融サービス分野では外国企業からの金融法や規制についての意見を積極的に活用する/農業では農産物の輸入を妨げる規制障壁を取り除く/外国人弁護士が日本で活躍できるようにする ─ 等々だ。

これまでそうであったように、これからも日本政府は米国の内政干渉を喜んで受け入れ、要望を一つ一つ実現していくだろう。それによって日本はさらに競争社会となり、農薬まみれの農産物や特定危険部位の混入した牛肉を買わされ、米多国籍企業が業界を牛耳り、そして米国人弁護士によって米国並みの訴訟社会となっていく。

日本国籍を取ったことを後悔はしていない。しかし、私がこの目で日本の移り変わりを見続け、次に十年たったときに米国と何も変わらない社会の姿がそこにあったらと思うと、こうした情報発信にさらに力が入る今日このごろなのである。