No.757 米国の計画的な犯罪

私がこのコラムで取り上げる話題は主流のテレビや新聞の報道とは違った視点からのものが多い。もちろんインターネットのように個人が情報発信できる世界では、主流メディアの発信には見られない報道やコメントは数多く見ることができる。それでもインターネット人口は、家庭からのブロードバンド利用者数約3800万人(インプレス調べ)と、100%近い普及率であるテレビの影響力にははるかに及ばない。

米国の計画的な犯罪

電源を入れるだけでよいテレビと違い、インターネットは自分から情報を取りに行くという行為も必要だ。今の時代に求められるのはこの「自分から行動する」という姿勢である。

あらゆることで大切なのはバランスであると私は思う。戦時中、政府は言論統制によって報道や出版をコントロールした。国家の政策を批判したり、政策に反する主張がなされないよう検閲が行なわれ、政治的な主張を行う集会も禁止された。現在、憲法において日本では言論の自由が保証されている。

しかしこれは情報操作が行われていないということではない。政府にとって不利な情報を隠ぺいしたり、虚偽とまではいかずとも、実際に起きている重要な出来事から目をそらさせるためにどうでもよい情報を繰り返し流すといった操作が、米国や日本で当然のように行われているのが現実である。

従ってそのバランスをとるために主流メディアが報道しないこと、隠そうとしていることについても知ることが大切だなのだ。その努力を怠ると再び国家が向かうべき方向を誤ったときに大変なことになるだろう。要は、情報操作や隠ぺいといえば北朝鮮や軍事政権下と思いがちだが、民主主義国家でも行われており、それはより巧みになっている。

例えば日本政府が追随する米国の一挙一動を報道する日本のメディアだが、米国に都合の悪いことはほとんど知らされない。大量破壊兵器を理由にイラクを侵略し、それがうそだと分かってもメディアがそれを検証しないことからも明らかだ。しかし米国のこのやり方は今に始まったことではない。例えば米国は50年近くキューバに経済封鎖を行っている。米国政府は「通商停止」と呼んで正当化しようとしているが、実際『経済戦争』とも呼ぶべき行為だ。

キューバとの経済戦争は1959年に始まった。弁護士であったカストロは米国による半植民地状態から抜け出すために反政府組織を結成し、親米の独裁者だったバティスタを国外逃亡に追い込み革命政権を樹立した。しかしバティスタとその取り巻きは逃亡の際にキューバの国庫から4億ドル以上を持ち出したためキューバペソの不足が起こった。キューバは米国へ借金を嘆願したが、もちろん米国は断り、同時にキューバ国民から盗まれたお金もキューバに戻らなかった。

困窮したキューバ政府に対して次に米国がとった政策はキューバ産砂糖の禁輸だった。主要産業である砂糖の禁輸はすなわち国民の失業を意味する。燃料の供給もカットすれば1カ月から6週間で大きな影響が出るのは明白だった。こうしてキューバの長い困窮の時代が始まった。

米国政府の作戦は、気に入らないカストロ政権を倒すためにキューバ国民を困窮に追い込み、それによって国民の不満を募らせ、国民が政府を転覆するようしむけることだった。つまり政治の道具に経済制裁を利用し、結果的にキューバ国民を苦しめた。米国のキューバへの経済封鎖は歴史上最も長期にわたる、特定の民族に対する計画的な犯罪行為だった。

米国の主流メディアはカストロは共産全体主義者であり、バティスタたちは自由を求めて米国へ亡命したかのようにいう。カストロは独裁者かもしれないが、そこで欠けている視点は多くのキューバ国民が米国の経済封鎖によって苦しめられていること、そして同時にカストロの政策を支持しているということだ。

日本の主流メディアも広告主である大企業の市場であり、また日本政府が追随する米国について、バランスのとれた情報を流してはいない。

『一般大衆はテレビの前にじっと座り、人生で大切なのはたくさん物を買って、テレビドラマにあるような裕福な中流階級のように暮らし、調和や親米主義といった価値観を持つことだ、というメッセージを頭の中にたたき込まれていればよいのである』

 これはチョムスキー著メディア・コントロールからの引用だが、まさに言いえて妙だと私は思う。