米国で行われた11月の中間選挙で共和党が惨敗し、選挙直後にはラムズフェルト長官が辞任した。読者から、これによって侵略と戦争に狂奔するブッシュ政権の方針が方向転換し、世界にとって希望を意味するのだろうかという質問を頂いた。
米国の外交政策は不変
米国の政策が変わってほしいと、私も心から願う。特に、その外交政策はごう慢でうそに満ちている。権力の座を欲しいがままにした共和党は、何をしても米国民は気が付かないと思ったが、そこまで愚かでもなかったようだ。
確かにこの中間選挙は、米国がこれから歩む道を少しは変えることになるかもしれない。少なくとも国内政策については政府のさまざまな委員会を仕切る人々が変わることで最低賃金の引き上げや社会保障民営化、高齢者向け医療保険制度などの見直しがなされる可能性はないとはいえない。
しかし外交政策については、私は楽観的になれない。むしろ明らかに常軌を逸したこれまでのブッシュの政策が、巧妙に人々に気付かれないものの中身は変わらない、というようになることへの危惧(きぐ)を感じている。
米国の成り立ちを振り返り、その歴史を知るほどそう思わずにはいられない。その歴史とは私が米国で習ったものではもちろんない。日本で歴史教科書が「侵略」という言葉を使うかどうかで問題になっていると聞くが、米国の教科書も、その成り立ちの過程で起きた出来事のほとんどを正当化し、美化している。
私の母国であり、世界唯一の超大国であるアメリカ合衆国は、コロンブスによるいわゆる「発見」から約500年、独立宣言から数えればわずか230年にしかならない。しかしこのコロンブスの発見というのは、たとえていえば、あなたが私の家にやってきて「発見した」と言って私を追い出して、住み着いたようなものである。
北米大陸には数こそ定かではないが、アメリカインディアンとか先住民と今呼ばれている人々が住んでいた。つまり米国の歴史は、最初の白人が来た時から綿々と残酷な拡大と帝国主義が続いている。しかし教科書は、米国は自由な、開拓者精神あふれる素晴らしい国と描写し、そう子供たちに教えている。
米国移民の原点はイギリスからメイフラワー号に乗ってきたピューリタンの人々だった。彼らはイギリスで迫害や差別を受けていたキリスト教プロテスタントのグループで、北米大陸に“自分たちの”信仰の自由と“自分たちの”理想的な社会の実現を求めた。さらに教科書で教えていないことは、こうして作られたイギリスの植民地の目的は、イギリス人投資家が共同で作った株式会社を通して、北米大陸の資源やその地に住む人々を収奪して利益を出すためだったということだ。
先住民たちにとって最大の不幸は、このアングロサクソンという人々がものすごく狂信的かつ人種差別的であり、その地に住む先住民たちに対して強い優越感を持ち、自分たちの理想の国を作るために彼らを大虐殺することなど全く平気であったということである。ヨーロッパからきた白人にとって、その地には野蛮人しかいなかった。野獣と大差ない人間は殺してもかまわない。白人は先住民を人間ではないとみなすことで、自分たちの行為を正当化したのである。これはイラクをテロリスト国家だとみなすことで侵略を正当化する今の米国とまったく変わらない。
米国の学校で建国の歴史が先住民の視点から教えられることはなく、勝者の、支配者の視点からだけみた歴史が教えられている。そしてもともと北米大陸にいた先住民たちは居留地と呼ばれる土地に住まわされ、さらにそこでは大企業による深刻な環境破壊が行なわれている。有色人種に対する白人の優位性は、建国以来、米国指導者の中にしっかりと根付き、伝承され、今日まで続いているからである。参考までに、ジョン・ダワーの「人種偏見」という本には、その建国から持っている米国の人種差別主義が戦争中いかに日本に向けられたかが描かれている。
民主党でも共和党になっても米国の外交政策は大きく変わることはない。なぜなら影響力、権力を持つほとんどすべての米国人は、白人のキリスト教徒であり、彼らは他のいかなる人種や宗教よりも自分たちは優れている、だから世界を支配する権利があると心から信じているからである。または、信じているふりをして、資源を、利益を手にしたい自分たちの行為を、正当化し続けるのであろう。