No.767 肉食から菜食へ

インターネットの世界で手に入る情報は玉石混交だといわれる。それに異論はないし、だからこそ私なりに仮説を立てて結論を導くために、必ずデータによる裏付けを自分なりに検証しているのはそのためである。それでも、自分の信頼する学者やジャーナリストの記事からは大きなヒントをもらえるので、定期的に必ずチェックするニュースソースがいくつかある。

肉食から菜食へ

このコラムにはいろいろな方からメールで感想を送っていただく。送ってくださるのは純粋な読者の方であることが少なくない。インターネット・サーフィンをしていてこのコラムに到達したのかもしれない。私の本業はあくまでも企業経営であり、日常に業務で使用している名刺には、私の名前と会社のホームページアドレスしか印刷されていない。会社の住所もなければ、電話番号も書いてない。業務でかかわりのある人なら当然コンピュータは必需品で十分使いこなしているはずだから、昨年から従来の名刺をやめてこのインターネット上の住所(ホームページ)だけにした。今のところ困ったことは起きていない。私がインターネットで情報を収集するように、私のコラムも情報源として利用されているのであろう。

先日は農林水産省で食料問題関係に携わっているという方から問い合わせを頂いた。数カ月前にこのコラムで、われわれの食料がいかに石油をたくさん消費して食卓に並んでいるかを示す例として、消費される1カロリー当たり平均で7カロリーの石油燃料が使われているという研究結果があるということを書いた。それについて情報源を知りたいというものだった。

出所はやはりインターネットで集めた記事だったため、それを知らせたが、政府で働く人が私の主張やデータを読んでいてくれていることをうれしく思った。私個人の発信が、日本の食料政策を決める人々に届くかもしれないからである。だから出所を知らせた返事に、どうか輸入に頼らずに日本の食料自給率を高めるための政策をとるようにとお願いしておいたが、残念ながらそれに対する返事は頂けなかった。インターネットによるコミュニケーションはしょせんこの程度かもしれない。

なぜ食料問題かといえば、先日、米国人が肉中心の食事から菜食にする方が、ガソリンを大量に消費する自動車をハイブリッドカーに置き換えるよりも、地球の温暖化防止に効果があるという調査結果をシカゴ大学の研究者が発表したという記事を読んだためだ。これはまさに日本でも有効な方法だ。米国なので消費する肉の量も日本よりけた違いに多いかもしれないが、肉中心の食事に比べて菜食だと、生産から加工、輸送から調理までに出される二酸化炭素の排出量は大幅に少なくなるのである。

1月には、元米国副大統領のゴア氏が来日し、これまで行ってきた地球温暖化防止を訴えるスライドショーを劇場用映画に編集した「不都合な真実」の上映も日本で始まった。日頃映画など行かない私だが、京都で上映していたので観にいった。特撮ではなく、地球の異変を実写で見ることはとてもインパクトがあり、まさに地球が危機にひんしていることを視覚で伝える作品で、一人でも多くの方にご覧いただきたいと思う。来日したゴア氏は、この地球温暖化という現実に対して、悲観するだけではなく一人一人が力を合わせるチャンスととらえ、希望を持つべきだと語ったが、私もまったく同感である。

ここで日本の皆さんに提案したいことは食生活の見直しだ。戦後米国に押し付けられたパンや肉食から、昔の日本の食事、野菜中心の食生活に戻ることである。環境問題を訴えるグループにとって「肉食から菜食へ」というスローガンはあまりかっこよくないかもしれない。しかしこれこそ、国民一人一人が日々の暮らしの中でひそやかに実践することができることなのだ。

1キロの鶏肉を作るためには2キロの飼料(穀物)を使い、豚1キロなら4キロ、牛肉なら7キロもの飼料が使われる。肉食が増えればより多くの穀物が必要になる。さらには余分の水、エネルギー、化学肥料が使われ、従ってより多くの二酸化炭素が排出される。気候変動と食料はこんなにも密接につながっている。

農林水産省が政策を改めることを期待するよりも、一人一人が地球に与える影響は大きい。少なくとも、今われわれにできることから。そして身体にもよい菜食に変わることで国民がより健康になればそれに勝ることはない。