No.771 オープンソースの社内活用

キューバ政府は、現在使用している大量のPCをオープンソースへ移行することを計画していると発表した。

オープンソースの社内利用

オープンソース・ソフトウェアとは、その設計図にあたるソースコードをインターネットなどを通じて無償で公開し、誰でも改良や再配布が行えるようになっているソフトウェアのことである。商用のソフトウェアは自社が開発したソースコードを非公開とし、それを供与することで使用料を取るのに対して、オープンソースは基本的に無償で使うことができる。報道によればキューバ政府は税関サービスで既にリナックスというオープンソースを使用しており、今後は他の政府機関も移行していく計画だという。

キューバ政府の動きだけみると、いかにも反米の社会主義国らしい選択と思われるかもしれない。しかしこれはキューバに限ったことではなく、ノルウェー、ブラジル、ベネズエラ、中国などの政府も、PCの使用に際してマイクロソフト製のウィンドウズからオープンソースへ移行することを検討している。自治体レベルになるとイギリスのブリストル、オランダのアムステルダム、ドイツのミュンヘンなど、さらに多くのところで移行プロジェクトが既に始まっている。

オープンソースは日本の公共機関でも導入が進んでいるが、フランス議会は2007年6月以降、使用されるPCにはリナックスOS、ワープロや表計算などのソフトはオープンオフィスなどのオープンソースに移行し、これによって特定の企業製品に依存することなく、税金を有効に活用して情報技術をコントロールできるようになるとしている。

今年1月、欧州委員会はオープンソースを使用するとコストが削減できるという調査結果を発表した。この調査は6つの欧州連合諸国におけるオープンソースプロジェクトの詳細な分析に基づいており、これに対してマイクロソフトはウィンドウズを使用するほうがコスト面で有利になると主張し、真っ向から対立している。

このような状況の中で、昨年、我が社でもPC用ソフトウェアをマイクロソフトからオープンソースであるオープンオフィスに全面切り替えるという決断をした。そして奇しくもマイクロソフトが新しいOSと銘打って大々的にウィンドウズ・ビスタを発売した2007年1月30日の翌日に、全社員のPCからマイクロソフトのオフィス製品を削除させた。コンピュータ・ソフトの販売という商売上、どうしても顧客対応や技術サービスで使用しなければならないライセンスは残したが、社内標準はオープンオフィスであり、社員は基本的に、使用料を払う必要のないオープンオフィスというソフトウェアを使って、文書、表計算、プレゼンテーション資料の作成を行っている。

1月の報道では、マイクロソフトは新しいOSビスタのセキュリティに関して、一般公開前に米国家安全保障局(NSA)から評価やフィードバックを受けたことを認めたというが、これについて、NSAのビスタへの関与、つまり「秘密の裏口」を仕掛けた可能性を懸念する専門家もいる。NSAが評価の際にビスタのソースコードにアクセスして秘密の機能を付加しなかったという保証はないからだ。

こう考えると、キューバやベネズエラ、中国といった国々のマイクロソフト離れは当然のことなのである。マイクロソフトが米国政府にソースコードを公開したかどうかは推測の域をでないが、民間企業の製品のセキュリティ確保のために無料で評価サービスをするのだから、相互に利益があることは確実だろうし、その秘密の裏口を使ってNSAが情報にアクセスするのではと思われても仕方ないだろう。

わが社のオープンソースへの移行は、反米、反マイクロソフトが理由ではないが、利益を独占するための知的所有権の行使には以前から私は反対であった。そして世の中が大きく変化し、従来一つの企業または個人が独占的に所有してきた知的財産そのものが公開され、共有化されることによりその価値が薄れていき、ソフトウェアの世界においてもそれがオープンソースという形態で将来起きうるだろうと予測し、それに備えた移行でもあった。

マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は、知的所有権を排除しようとする動きを「現代の共産主義者」と呼んだという。知的所有権に守られたゆえに、彼が個人資産500億ドル(約6兆円)を築いたことを考えれば、私は反マイクロソフトの共産主義者というレッテルを、喜んで張られよう。