米国がイラクに侵攻して5年目になった。この2月にも市場や大学などで爆発テロが相次いで起き、死亡した米兵は3千人以上、国連イラク支援派遣団が昨年7月に行った発表によると5万人以上のイラク人が亡くなっている。そのイラクで今、同国の重要な資源であり産業でもある石油について、極めて重大な決断がなされようとしている。
米英の狙いはイラクの石油
イラクの油田の管理権をめぐっては、地方政府とバグダッドの連邦政府とで激しい応酬が続いてきた。イラク憲法では、石油資源の所有権はイラク国民にあると定めているが、それを地方とバグダッドの連邦政府のどちらが請け負うか明確には規定されていない。そのため昨年から、石油の管理と収入の配分をめぐって地方とバグダッドでの不協和音が高まっていた。
先日、英インディペンデント紙は、イラク政府が、サウジアラビア、イランに次ぐ世界第3位の原油埋蔵量をもつイラクの石油を、西側の石油会社に支配権を渡す法律を草案していると報道した。2月中旬時点の報道においてこの法案を後押ししているのは米国政府で、これによってエクソン、BP、ロイヤルダッチシェルなどの民間石油会社に30年間の石油の採掘権が与えられるという。
中心は生産分与協定(PSA)で、石油の所有権はイラクが保持するが、基盤整備や掘削活動、パイプライン、精製所への投資に対して外国の石油企業に報酬を認めるという。この産品共有協定は30年間継続され、外国企業は初期投資コストを回収した後も石油収入の60%を得ることができるのだ。
イラク情勢が相変わらず混沌(こんとん)としていても、侵略の理由であったサダム・フセインが死刑執行されてもほとんど話題にならず、その上こうしてひっそりと石油の支配権をめぐる法律の草稿が作られている。この協定が成立すれば今後イラクは数十年間、悪い条件のもとで国家運営を行うことを余儀なくされる。
プラットフォームという人権・環境保護団体のGreg Muttittによれば、この草案は米国政府が雇った米コンサルタント会社「ベアリングポイント」社によって作られ、それを米国政府、そして石油メジャーとIMFがチェックし、イラク政府はほとんど関与していないという。
イラクは経済のほとんどを石油に依存している。だからこそ原油埋蔵の多い北部クルドはその権利を自分たちの掌中に収めたいと思っている。イラクの石油が西側の石油会社にわたる法案を政府が進めようとしていることをイラク国民が知れば、国内情勢はさらに不安定になるだろう。
米英の攻撃以来、イラクの石油生産は激減した。90年代からの経済制裁によって石油のインフラ全体が悪化している上に、パイプラインは武装勢力による攻撃の脅威に常にさらされている。安定して輸出ができるのはシーア派が優勢な南部経由くらいだ。さらに2003年以降、イラクで高等教育を受けたエリート層のほとんどは身の安全を求めて国外へ脱出してしまい、だからこそ、リスクのあるイラクの石油ビジネスを行うために外国資本と技術が必要だからこのような異例の条件が必要だ、というのが生産分与協定である。しかし現実はイラクにはすでに多くの油田が発見されており、北海油田と比べても安く採掘ができ、治安が安定すれば生産量も上がる。結局、米英のゴールの一つは、こうして長期にわたりイラクの石油を管理下に置くことだ。
Cost of Warというサイトによると、イラク戦争開始以来、米国は3,660億ドル以上の税金を戦費に投じた。最大の受益者は、チェイニー副大統領が経営者だったハリバートン社で、イラク復興工事のほとんどを受注した。ハリバートン社の子会社、KBR(ケロッグ・ブラウン&ルート)社だけで130億ドルの契約を取った。このほか、ベクテル社、ベアリングポイント社、GE社など150社以上の米国企業で総計500億ドル以上のビジネスを受注した。イラク戦争はイラク人のためでも、イラクの民主化のためでもない。
米国の占領の下では、そして傀儡政府のもとでは、イラク再建・復興は不可能であることは明白である。イラク戦争をめぐって久間防衛相が米政府を批判したことがあったが、日本国民全体でイラク戦争と占領のおかしさを訴えるべきである。