3月上旬の時点で京都では早咲きの桜はとっくに花開き、通常の桜も、つぼみが今にも咲きそうなほど膨らんでいる。先日は、知人から日本はもう四季から三季の国になってしまうようだというメールをもらったが、まさにそのように季節は巡っている。
温暖化は地球の警鐘
個人的にはトレードショーのようなアカデミー賞にはまったく興味はないが、先月末、ゴア元副大統領が自ら出演した「不都合な真実」が長編ドキュメンタリー賞など2部門でオスカーを受賞した。ゴア氏の精力的な活動については、来年の大統領選挙に出馬するためではないかとか、エネルギー消費を減らせと訴えながらテネシー州の自宅の電気代が米国一般家庭の電気使用量の10数倍も使っているとか、言行の不一致に対して批判を浴びているという。
目立つ行動をとれば、まして不都合な真実を公開されては困る側に力や資金があれば、純粋な動機で気候変動の深刻さを訴えていても、さまざまな形で妨害が入るのはよくあることだ。私宛てにはメールで、ゴア氏は実は特定人種を抹殺するために映画を利用しているという陰謀説が送られてきた。彼の映画を観た限りそのような目的は感じられなかったし、地球温暖化という全人類に迫る大きな問題の前に説得力がない。もちろん一部の金持ちはどんな地球環境でも、たとえばシェルターの中で生き続けることを望むのかもしれないが、それでも人間であればいずれ死は免れない。
どんな動機であろうとも、ゴア氏の活動が米国で影響を及ぼし始めている。米国らしい単純なものとしてはアカデミー賞の時にも、授賞式に参列するスターにリムジンやSUVではなくハイブリッド車や電気自動車などが使われた。また地球温暖化を取り上げるメディアが増えており、スポーツ誌やファッション雑誌などでもこぞって地球温暖化や気候変動をテーマに特集記事が特集されているという。例えば『スポーツイラストレート』では、野球場のある南フロリダのような沿岸沿いの地域は、温暖化による海面上昇によっていずれ浸水されてしまうことが記事で取り上げられた。
一部だけでなく、海面上昇の影響で全国土が水没の危機にさらされているツバルという国が南太平洋にある。マングローブ植林を進めるなど対策をとっているものの他国が排出する二酸化炭素を減らさなければ、海面上昇によって国家の存続すら危うくなっている。
島国ツバルの問題は日本の問題でもある。島国である日本は狭い国土に対して長い海岸線を持つ。国土の7割が山地であるため人口は沿岸地域に集中する。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、世界平均海面水位は1961年から2003年にかけて年平均1.8ミリの割合で上昇したが、1993年から2003年にかけての上昇率は年3.1ミリだという。それが日本についていえば1993年から2003年で5.0ミリと、それを上回って海面が上昇している。日本で30cm海面が上昇すると、日本全国の砂浜の面積の半分以上が消えることになるというが、海面上昇の影響はそれだけではない。日本における経済活動が集中する東京や大阪などの臨海都市は埋立地が多く、そのほとんどが浸水する。
スポーツだけを考えれば、雪が少なければもっと山の上の斜面へいけばいいかもしれない。しかし現実に沿岸地域の商業ビル、住居すらも危機にさらされているにもかかわらず、それについて(私の知る限り)何の対策も検討もなされていない上に、その原因となっている温暖化について日本政府が何をしているというのであろうか。
かすかな希望は日本が手本とする米国でポーズであっても政治家は反応をし始めている。カリフォルニアのシュワルツネッガー知事は、2020年までにエタノール混合燃料や代替燃料でガソリン比率を10%以上削減することを義務付ける規制の策定を指示し、また輸送用燃料を対象とする低炭素基準を国レベルで設けるよう政府に訴えた。
気候変動を太陽黒点の活動のせいにしたり、陰謀説にすることは簡単である。しかし原因が特定できないうちは、この冬の異常な暖かさ、そしておそらくは来るべき夏の異常な暑さを前に、気候変動の深刻さを認識し、小さなことでも行動を起こすべき時にある。