米国には、世界滅亡の日に向けて時を刻み続ける「世界終末時計」なるものがある。核による世界滅亡の危機を示すため、1947年、シカゴに設置された。この時計が去る1月に2分進み、世界の終末を示す午前零時までにあと5分になったという。核兵器の脅威に加え、地球温暖化という新たな危機に直面したことが破局が早まった理由である。
拝金、成長主義が問題
環境問題について門外漢の私は、なるべく多くのデータを調べ、科学者の分析を参考にして判断を行うようにしている。ゴア元副大統領の映画で描かれていたように、真実は一つではないのかもしれないし、まだわからないこともたくさんあるからだ。1週間先の天気予報すら当たらないのだから、10年後の温度などわからないとうそぶく人がいて当然だ。
それでも私が懲りずにこの話題をだすのは、多くの科学者が「地球は温暖化している」と言うメッセージを発しているのに、そして、原因が何であれ、地球の持てる機能が低下しているという現実を誰もが体験しているにもかかわらず、温暖化を認めない人があまりにも多いからだ。認めないどころか、問題に気づいていない人もいる。その責任はテレビや新聞といった主流メディアだけにあるのではないが、企業の成長を阻む温暖化対策をとりたくない企業を広告主とするメディアの影響力はあまりにも大きい。
最近のはやり言葉にCSRというのがある。企業の社会的責任というものだが、私の考えではこれは当然のことであり、あらためて企業が取り組むこと自体、企業モラルが低下した証拠であろう。
米国の大学院で学んでいた時、経済学の教授から『論語』を読むようにいわれた。そこで孔子の「弱者が困らないように強者は配慮すべきだ」という、トップが悪いことをしないようにする教えを知った時は新鮮だった。なぜなら米国は、当時からまったくその逆のことを教える国だったからだ。宗教としてのキリスト教は人々に「人間は生まれつき罪を背負っている、だから貧しい生活は当たり前であり、自分が悪いのだから我慢しなさい、その代わり死んでから救ってあげよう」と説いた。搾取される側の人々に、我慢をさせるための教えだった。
いまでも米国はイエス・キリストの「汝の敵を愛せ」という言葉の反対を行う国である。テロ国家と定めれば、愛するどころか侵略し、爆撃をおこなう反キリストの国なのだ。国家の持つ宗教的な教えはその社会の仕組みと深くかかわる。だから米国は先進国の中でもっとも貧富の格差が大きく、1%のお金持ちが国内の富の半分以上を所有する一方で、6人に1人が貧困線以下で生活をしているのだ。
孔子や儒教を時代遅れと捨て、米国のやり方を導入し始めた日本で、強者(企業)が配慮を忘れたのは偶然ではない。利益追求のためにおこなった悪事が発覚し、テレビカメラの前で頭を下げる企業トップの姿にもはや誰も驚かない。
企業の成長志向が地球温暖化を進めている。また企業だけでなく、個人が物質的な便利さ、豊かさを求めすぎ、機械にばかり頼るようになることが、有限である空や大地を汚し、それが「世界終末時計」を破局まで5分に推し進める。キリスト教のいかにも米国らしい終末思想で、その時計を進めている一番の原因は拝金主義、成長主義であり、それが人の心と社会を同時に崩壊させている。
「ガイア理論」で有名なジェームズ・ラブロック博士は、著書『ガイアの復讐』で気候変動は引き返せる地点を過ぎてしまったと述べた。しかしこれは何もしなければ危機に陥るが、まだすべきことある、と私はとらえている。企業、個人、そして特に政治家が必要な行動に取り組むつもりがあれば解決策は山のようにある。再生可能エネルギーの利用と省エネルギー、公共輸送の改善だけでも、CO2の排出は大きく削減できる。
ラブロック博士のいうように地球が復讐をし始めたと私は思いたくない。人間は地球の一部である。日本社会が捨て去った自然と調和した生き方を見直せば、終末時計を遅らせることは十分可能なのだ。限られているが、まだ時間はある。だからこそ、現実の問題として気候変動にもっと注意をむけ、その実情を知って欲しいと思うのだ。