6月にドイツでサミットが開かれたが、その前に、安倍首相は日本政府の地球温暖化対策の目標を盛り込んだ提案「美しい星へのいざない」を明らかにした。それは2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を現状から50%減らすことを世界共通目標とする、というものだ。「美しい国」も安倍首相のフレーズだが、今回も使っており、どうも「美しい」が好きらしい。中国語で「美国」は米国を指すと聞いたことがある。まさか日本を米国のようにしたいがために使っているのではないだろうが、政策をみるとそうであってもおかしくはない。
京都議定書も、日本は2012年の削減目標さえ達成できない危機感がある。それにもかかわらず、日本政府は温室効果ガス排出量の65%を出しているエネルギー転換部門と産業部門に対して規制を強く求めず、日本経団連の「自主行動計画」に任せている。「美しい星」という名称のもと安倍首相が掲げる目標は、経済至上主義の財界の利益を守ることなのだろう。低炭素社会を実現するという名目で、アジアの国に原子力を使った火力発電所を作るべく技術を移転するというのである。これは財界にとって、大きなビジネスチャンスだ。
日本政府は原発をエネルギー自給率向上の柱としているが、これはわれわれの子供や孫に重い負担を残すことになる。原発の寿命は約40年しかない。現在日本には53基の原発があるが、われわれが使っている原発を、巨額の費用をかけて次の世代が解体しなければならないのである。多くの危険な廃棄物が発生するうえに、放射性廃棄物はその後何万年という永遠のような時間、隔離保存しなければならない。
原発は事故も多い。美国、いや、米国は世界一の原子力発電国である。しかし1979年にスリーマイルアイランド発電所での事故以来、原発の新設はなかった。しかし2001年、ブッシュ政権は新たなエネルギー政策として原子力発電の推進を発表し、流れが変わった。一方EUは、2020年までに風力などの自然エネルギーを20%導入する計画をしており、ドイツは風力発電と太陽光発電によってすでに2010年の目標を達成する見込みだという。日本の政策が原子力発電の海外移転とは、美国の属国日本、と思われてもしかたない。
いずれにしても、私は人類は2050年までに、などと悠長に構えてはいられないと思っている。しかし、国連のIPCCが地球温暖化や水不足が深刻な飢餓を引き起こすと警告しても、まだ多くの人が懐疑的だ。しかしそういう人に私は言いたい。先進国の人間の活動が地球温暖化の原因だということが科学者の思い込みで、温暖化はそれ以外の、例えば太陽や惑星の動きによるものだとしても、地球環境を見直すためにわれわれは活動を見直すべきだと。
熱帯雨林の伐採で消滅する森、大気や海の汚染、有限である資源を使った大量生産と大量消費、そして大量の廃棄物問題。この地球を他の自然や生き物と一緒に共有しているはずの人間がこのような好き勝手を続ければ、地球のバランスは崩れ、いつかは人間にそのしっぺ返しは必ずくる。
米国全土で昨年10月以降ミツバチが突然巣箱からいなくなるという現象が広がっているという報道があった。果実や野菜など、ハチを介した受粉に依存する農作物は数多くある。石油が高騰するからトウモロコシを燃料にすることと同じくらい、ミツバチの消失もわれわれの食料供給に影響を及ぼしうるのだ。そして米国に食料危機がくれば、多くの穀物その他を依存している食料自給率4割にも満たない日本がどうなるかは、言うまでもないだろう。
小さなミツバチが巣箱に戻らず姿を消した理由は、農薬かストレスか、空気汚染か、電磁波か、それらすべてか、科学者にはわかってはいない。しかし地球環境の変化によってこれまでたくさんの種が絶滅したように、われわれに警告のシグナルを送っているに違いない。地球を支配するという傲慢さと、自然を痛め続けることをあまりにも長く続けてきた人々へ送られている警告の一つととらえて、この美しい星の将来をもう一度考えるべきだ。