航空自衛隊のイラク派兵を2年間延長できる、改正イラク復興支援特別措置法が6月に成立した。
イラク戦争のまやかし
米国のイラク侵略から4年以上がたった。小泉前総理が「イラクの大量破壊兵器は世界の平和に対する重大な脅威だ」と主張、日本政府は米国のイラク攻撃を支持したが、攻撃理由であるイラクの大量破壊兵器の存在そのものが嘘であったことは、すでに米国をはじめ世界の人々の知るところとなっている。オランダやイタリアなど多くの国がすでにイラクから撤退し、英国も部隊の縮小を始めた。そんな中で、なぜ日本だけが自衛隊の派兵を延長するのかといえば、米国の「テロとの戦い」に協力するためである。
現在のイラク情勢はさまざまな見方があるが、一つ言えるのはこれは戦争ではないということだ。少なくとも現時点は、米国による占領の失敗、というのがもっとも適切であろう。その無駄にされる米国民の税金と米兵の生命を正当化するために、米国政府は「イラク戦争」と呼び続けているに過ぎない。そして、傭兵会社を含む米国の民間軍事企業にとって、数十億ドル規模の魅力的な市場を提供している。
90%以上のイラク国民が外国軍の駐留に反対し、また米国内でも反対意見が広がっているなかで、執拗に米国がイラクを占有し続ける理由は石油しかない。石油がなければ、今の米国社会を維持することが難しくなるからだ。
石油の減耗について、科学者が警鐘を出し始めたのは1970年代にさかのぼる。実際、公表されている石油の発見量をみると、年平均で1970年から1990年は230億バレルだったのが、1990年から1999年は60億バレルと激減した。その一方で1990年から1999年の石油消費量は250億バレルに急増した。技術の進歩で石油の探査開発技術も高性能になっているにもかかわらず、毎年の使用量の4分の1しか発見されていないのだ。
世界地図を広げてみると、米軍が活動している場所のほとんどは石油が関係しているといっても過言ではない。大量に石油を消費する自動車を基本に整備されている米国社会は、ガソリン以外の燃料をさがすか、減り続ける石油を手に入れ続けるか、どちらかしかないと米国の指導者は思っている。政治家にとって、国民に変化を強いる政策はできる限り先伸ばしにしたいし、また既存のシステムで利益を得ている企業は四半期ごとの業績だけが最重要事項なのだ。いずれにしても、今のままだとたとえ世界中の自動車がプリウスに置き換わっても、人々が痛みをもって現実に直面しなければならない日がいつか来る。その時にようやくイラク占領がなんであったか、米国民は気づくのかもしれない。
こう考えると、日本の防衛とは何の関係もない米国の「テロとの戦い」に協力する理由もみえてくる。安倍首相は、日本が石油資源の約90%を依存する中東地域の平和と安定の重要性を強調しているし、先ごろは日本経団連が首相に同行し、一大ミッションを組んで中東諸国を訪問した。日本政府と財界の行動も、ますます米国政府とそのスポンサーの米国多国籍企業に酷似してきている。
米軍がイラクに撒き散らす劣化ウラン弾は45億年の半減期を持つ放射性物質で癌や白血病など様々な疾病を引き起こす。イラクの人々のためにも米国の不法占領は一日も早く止めさせる必要があるが、それだけでなく、そのような土地で米軍の兵士や武器を空輸する手伝いをしている自衛隊員も、長期にわたる健康被害が起こる可能性がないとはいえない。偽りの理由で米国のイラク攻撃に加担した日本政府がすべきことは、まずは反省と検証である。それもせずにイラク特別措置法を延長して自衛隊に米軍支援を続けさせるとは言語道断だ。
イラクで起きていることは戦争ではなく米軍による不法占領だ。イラク情勢の改善は、米軍撤退しかない。そして米国のいいなりで派兵を延長しているのは先進国では日本だけだということを日本人は知るべきだ。その後のイラクの国作りはイラク国民に任せればいい。彼らにそれができないはずはない。安っぽい帝国主義をふりかざす米国と違い、イラクは世界で最も古い文明の発祥地の一つなのだ。