No.798 近い将来地球に危機

エコロジカル・フットプリントなる言葉があることを知った。環境問題を専門とするシンクタンク「グローバル・フットプリント・ネットワーク」が開発した指標で、人間がどれだけ自然環境に依存しているかをわかりやすく伝えるものである。

近い将来地球に危機

日本にもNPO法人「エコロジカル・フットプリント・ジャパン」が作られ、出された指標を活用して持続可能な暮らしの提案を行っているという。興味深かったので、そのホームページから活動を取り上げたい。

エコロジカル・フットプリントとは、直訳すれば「生態学的な足跡」で、人間がその生存において、地球(生態系)を踏みつけた足跡といえる。つまり、人間の経済活動が自然環境に与える影響を数値で示すことによって、その活動(天然資源を過剰に収奪していること、または過剰に生産(消費)することで汚染などの地球に与える負の影響)をどれくらい減らすべきかの指標となる。

具体的には、ある場所の経済活動の規模を土地や海洋の表面積に換算する。それはその地に住む人々が消費する食糧その他を生産するのに必要な面積であり、またCO2吸収に必要な森林面積である。外部から食糧を輸入する場合は、その生産に必要な面積も合算する。その表面積の総計が、そのエリアで自然環境を踏みつけている面積「エコロジカル・フットプリント」となる。その面積をエリア内の人口で割ると1人あたりのエコロジカル・フットプリントが算出され、その場所の適正規模(環境収容力)をどれくらい超えた経済活動をしているかの指標となるのだ。

これによれば日本の環境収容力は国土の狭さから1人当たり0.7グローバル・ヘクタール(単位:GHA)しかないが、日本人の1人あたりのエコロジカル・フットプリントを計算すると4.4GHAにもなり、1人あたり3.6GHAも過剰に生態系を踏みつけている。ちなみに世界のエコロジカル・フットプリントは1人当たり1.8GHAである。また広大な国土を持つ米国の環境収容力は4.7GHAだが、エコロジカル・フットプリントは一人当たり9.6GHAにものぼる。

このような試算に対して計算式が不完全だとか、土地の形態が地域によってまったく異なる等々批判もあるだろうが、ここでは、有限の地球に生存する人間として先進国の生き方はもはや生態系の許容範囲を超えているという真実を謙虚に受け入れるべきだ。

「アメリカンドリーム」の米国に象徴されるように、先進国は生活水準を上げることに執着し、経済活動の拡大を追い求めた結果、その活動が地球の収容力を上回る、“オーバーシュート”(需要過剰)という状況をもたらした。先進国は地球の容量を超えて人口を増やし、生活水準を上げてきたのだ。先進国で暮らすわれわれにとって不都合な真実は、人口増と減ることのない消費、増え続ける廃棄物を吸収するだけの環境収容力が地球にはないということだ。

イースター島のように生態系のバランスが崩れると大量絶滅が起きる。エコロジカル・フットプリントはそれが今地球規模で起きていることを示している。ウィリアム・カットンがその著書「オーバーシュート」で、人口増を可能にしたのは安くて豊富な石油だと述べた。石油が人類に大量の食糧生産や製造を可能にした。しかしそれが先進国とよばれながら、持続不可能で不健康な社会を作り上げた。

この現実は政府、利益追求の企業経営者だけでなく、便利で豊かな生活を追い求める私たち自身が作ったものでもある。生態系の危機を無視し、大量消費、大量廃棄が続けられるかのように振舞っているからだ。イースター島の結末を避けたければ、まずは国民から行動を変えなければいけない。環境収容力以上の暮らしを続けていくことはできないからだ。

まだ見ぬ技術革新や奇跡的な発明を待ち続ける時間があると言う自信は、私にはない。しかし明らかにそう遠くない未来に、この地球に危機がくる可能性がこれほど高いのならば、新しい価値観を国民のほうから提示したい。特に世界の市場経済システムがこれほどまでに混乱している今こそ、それを離脱する動きを起こすよいチャンスでもある。