No.807 肉を食べず菜園作り

私事になるが、新しい年に向けていくつか決意したことがある。一つはお酒を控えること、そしてもう一つは肉食を完全に止めることだ。

肉を食べず菜園作り

世界の主要国の食料自給率をカロリーベースで見ると、フランス、アメリカのように100%を超えている国もあるが、日本はわずか40%にも満たない。数年前、日本政府は低迷している自給率を2010年には45%に引き上げる目標を定めたと聞いたが、本気で国家の食料政策を考えているのか疑問である。

それにしても1960年には80%を切る程度だった自給率がここまで下がったのは食生活の変化が原因であり、私の小さな試みは、自己の健康のためだけでなく、厳しくなるであろう食料事情を考慮してといっても過言ではない。

自給率の低さの一因は肉の消費増である。明治時代まで仏教の教えから四足の動物を食べることを禁じられていたというのを聞いたことがあるが、文明開化以降、肉食が奨励され、西欧文化の導入と輸入によって日本人の食生活が変わり始めた。さらに戦後には、米国政府による小麦戦略、つまり米国の余剰小麦のはけ口になったことでさらに米からパンへと日本の食事が激変した。学校給食でパン食に慣れ親しんだ子どもたちが今大人になり、米の消費量が減って洋食化した現状をみれば、米国の戦略は大成功であった。しかし日本の主食、米の自給率だけならほぼ100%であることを考えると、今われわれがすべきことは日々の食事を米と国産の野菜中心に戻すことだと思うのだ。

新年早々、ニューヨークの原油先物市場で原油価格が初めて1バレル100ドルを突破した。以前から繰り返し述べているが、安くて豊かな石油が支えてきた日本の、そして世界の仕組みは崩壊しつつある。グローバリゼーションの恩恵を享受するには石油燃料に支えられた運輸システムがなくてはならず、石油価格が上がれば世界のはるか彼方から日本の食卓に運ばれてくる食料が今までどおりの値段で提供されることはないと、はやく気づくべきだ。

もっとも大きな影響を受けるのは日本のような先進国の国民ではなく、途上国のすでに貧しい人々である。Oxfamという人道支援活動を行う団体によると、昨年EUが車の燃料を10%バイオ燃料に代替する政策を発表したことは、貧しい国の農民たちにとってさらに大きな脅威となるだろうという。国連WFPは昨年ひどい洪水の被害にあった国のほとんどはアフリカ、アジア、南米の国々であったといい、また世界には8億5400万人の飢えた人々がいて、さらにその数は毎年400万人ずつ増えているというのだ。世界はいま、近年にないほどの厳しい食料供給問題に直面しており、特に弱者にとって、食料はますます手の届かない高価なものとなりつつある。

今後の食料供給については、さまざまな予測がなされている。市場が自動的に不足分を調整するのでバイオ燃料よりも食料を作るほうが利益が上がるようになれば食料不足にはならないし、今後も技術革新が続いて地球温暖化になってもそれに適した作物がつくられるだろうという楽観的なものもある。

しかしただ希望的観測だけをいだいて何もしないというのは私の性には合わない。だからこそ人々が肉を食べるのを減らせば、より多くの土地が動物の飼料用でなく人間の食料を作るために使われるようになるだろうと思うのだ。たとえ日本のメディア報道になくとも、インターネット検索をすれば、西ベンガルやメキシコで食料をめぐる暴動がおきたこと、ジャマイカ、ネパール、フィリピン、サブサハラ・アフリカでは飢餓の警告が出されていること、多くの主要穀物の価格が記録的に上昇していること等々、いくつも記事が見つかるだろう。

世界情勢の大きな変化に対して、個人ができることはあまりない。しかし肉を食べず、菜園作りに励み、食事は粗食にして食べる量そのものも減らす、これこそ、世界食料事情に適しているばかりか、厚生労働省が撲滅したいメタボリックシンドロームなるものを予防・改善する一石二鳥の方法だと思うのだ。