米国労働省は昨年12月、雇用統計を発表し、米国内の雇用が悪化していることを明らかにした。サブプライムローン問題に端を発した米国の金融不安は、まず個人消費に影響を及ぼし、それが徐々に米国企業にも波及して統計に出はじめた。
偽りの富が崩れる時
多くの日本国民は、米国経済は自分たちには関係がないと思っているようだが、それなら、サブプライムローンで84億ドル以上の損失をだしたという米証券会社メリルリンチに、みずほコーポレート銀行が12億ドルの出資というニュースはどうだろう。みずほ自体も、サブプライム関連損失は1千億円を超えるとされている。日本でいわゆるバブル崩壊を経験したはずの邦銀が、再び崩壊すべき世界金融市場をめざす、といったら言いすぎだろうか。
イギリスではノーザン・ロック銀行という住宅ローンを主力とする中堅の銀行で取り付け騒ぎの事態が起きている。英BBC放送によれば、資金繰りが悪化した同行では、全英の支店で預金を引き出そうとする人々が列をなしたという。米国のサブプライムローンの問題で、各国の中央銀行がいくら協調して資金供給をしても世界中の銀行で信用収縮が起こり、資金調達が困難になって騒動となったためである。
サブプライム問題の根の深さは、ローンが証券化され、日本を含む世界の投機家に大量に売られていることだ。イギリスの問題だと今日は思っていても、日本でも一度金融不安が起これば預金引き出しに銀行窓口に並ぶ人が出ないとは言いきれない。そして実際の損失額がいつになってもわからず、膨らみ続けているのは、それが組み込まれている金融派生商品(デリバティブ)の総額がいったいいくらなのか、誰にも正確にはわからないためである。これがお金がお金を生み出す「マネー資本主義」の実態である。
さまざまな指標が景気後退局面に陥ることを示しているなか、ニューヨークタイムズ紙は米国個人消費の減退は1991年以来初めてのことであり、それはますます米国経済を悪化させるだろうと懸念する。これで思い出すのは、9月11日のテロのあと、ブッシュ大統領が米国民に言った言葉だ。米国経済を停滞させたくなければ、米国民はもっと消費をしろ、お金を使え、というようなことを言ったのだ。しかし考えてもみてほしい。あなたが一家の主として家計を握っていたら先行きのわからない時に借金をして家を買い換えたり、消費を増やすことが賢明な行動だろうか。経済や社会の先が見えない時代にすべきでないことは明白だ。
しかし大統領予備選のまっただ中の米国では、政治家も米国民も、これから何が起きるのか、何をすべきで何をしてはならないのかがわかっていない。それは米国という国が、その歴史の新しさゆえに、過去1世紀の間に厳しい政治的、社会的な動乱を経験していない数少ない国であるからかもしれない。
米国民がすべきことは、その日常生活を大きく変えるという厳しいプロセスを受けいれることだと思う。それは借金による今の暮らしを続けることを止めることだ。無駄な消費をやめ、エネルギーを大量に使う生活を見直すことであり、自動車を止めて公共交通網を見直すことでもある。
さらにグローバル経済の終焉に向かう準備を始めることだ。世界が一つのフラットで小さな市場であるためには、安くて豊富な石油が供給されることが大前提である。原油価格が1バレル100ドルの時代になれば、また世界は広く、大きなものとなり、残った資源をめぐり国々で紛争が起きることは必至である。生産拠点を海外へ移してしまった米国は、再び必要なものを国内で調達する必要があり、それも身近なコミュニティで調達できるような仕組みが求められるだろう。そして、マネー資本主義のような偽りの富が崩壊した時の、心の準備もしておいたほうがいいかもしれない。銀行の取り付け騒ぎが起きるようになれば、人々の心はすさみ、怒りや憤慨から大きな社会的動乱も起こり得るからだ。
そしてまったく同じことは、デリバティブによって、また米国政府に隷属する政府によって、日本でも起こり得る。どのようにして世界が第二次大戦に突入していったかをすっかり忘れてしまった日本人も、世界情勢を見ながら生活を改める時にある。