No.810 食料自給を急げ

先月、米連邦準備制度理事会は米国経済の見通し悪化による世界同時株安を受けて、フェデラル・ファンド(FF)金利を0.75%引き下げた。

食料自給を急げ

ブッシュ大統領が個人消費の刺激や企業の設備投資活性化を目的とする緊急経済対策を発表したが、いくら減税されても、このような時代にすべきことは消費を増やすことではないということを、政府のお抱えエコノミストたちはわからないようだ。いや、わかっていても彼らのスポンサーにとって都合のよい政策しかとれないのであろうことは明らかだが、それは崩壊を先延ばししているにすぎない。

米国投資家の不安心理を示すとして、「恐怖心理指数」とも呼ばれるシカゴ・オプション取引所のボラティリティー指数が5年ぶりに高騰したという。巨額の資金を投資している投機家たちにとって、これからも続くジェットコースターのような経済の動きは、ますます恐怖を伴ったものとなることだけは間違いない。

それにしても、このような状況の中で、昨年10月-12月期決算で150億ドル規模の損失を計上した米証券大手メリルリンチを辞任したオニール元会長らの心中はいかなるものなのだろう。オニール氏についていえば、2006年の所得は9,100万ドル、およそ100億円と、米国CEOの中でも最高額の報酬を手にした。その報酬の元が、いまになってサブプライムローン問題という形で露呈しているのだから、恐怖以上のものを感じているのか、想像もつかない。

金融恐慌という過去の歴史をみれば、米国で始まった1929年の「暗黒の木曜日」は、世界規模の大恐慌となって日本にも波及した。今回も米国を主要市場とする日本の輸出企業はじめ、日本経済に及ぶ影響ははかりしれない。しかし悲観論ばかり言っていてもしかたがない。これまでに同じようなことをこのコラムでも、それから講演でも社員に対しても、私は言い続けてきた。いまさら、「言った通りだろう」と言ったところでなんの解決にもならないからだ。

見方を変えて、現実の日本社会を見渡せば、今ほどさまざまな面で恵まれている時代はないのだから、昭和の恐慌とはスタートラインから異なっているとも言える。また、いくら格差社会といっても、現代は憲法で保障されているような主権が国民に与えられ、身分や男女の差別もない可能性に満ちた時代だといえる。だからこそ、この可能性を多くの国民が幸福になるような方向に広げていくことが重要であり、先進国だけでなく地球のさまざまな国の人々が同じように進化と発展を享受できるようなシステムを作るように動きだすべきだ。

その変化を起こすためにも、これまで世界を支配してきた経済至上主義、マネー資本主義、米国の覇権といった体制が崩れることは、不可避であり歓迎すべきことなのであろう。問題は、それによっていかにわれわれが受ける痛みを小さくしていくかである。それには、人間の幸福とは何かという根源的な問いかけに戻ることである。ほかのことはさておき、なるべく多くの日本国民が幸せに暮らすために必要なことから着手するのだ。

その際に個人消費を増やそうとする画策ほどばかげたことはない。身の回りをみればモノであふれており、国民が求めているのは健康保険や地震などの災害の被災者への支援援助プログラム、信頼できる年金制度など、個人で購入できる製品やサービスではなく、社会全体で購入しなければならないものなのだ。多くの国民の幸福につながるのは、健康や教育、社会保障、福祉、住宅に対する国の投資を増やすことなのである。

そして防衛とは軍隊を強化し、パトリオットミサイルを配備することではない。今年初め、防衛省は米国から買わされた追撃ミサイルを新宿御苑に訓練配備した。人口が密集する東京都心に迎撃ミサイルを配備しようとしているらしいが、そんなことよりも優先すべき防衛とは食料自給率のアップであり、エネルギー自給率の向上であろう。

人間が生きるために必要不可欠なのは日本流に言って「衣食住」だが、米国に隷属し続ける政権によって、日本は自給など望むべくもない状況になってしまった。今、我が家の食卓には家庭菜園でとれた大根やねぎなどたくさんの冬野菜が並ぶ。大恐慌に備えて、日本は農業への転職者の優遇や家庭菜園の推進など、食の確保を早急に始めなければいけない。