No.819 略奪的貸付の金権主義

去る2月、米ワシントンポスト紙に興味深い論説が掲載された。数年前、住宅ブームに沸く米国で返済能力のない人々に対して銀行が住宅を担保に行っている“略奪的貸付”(Predatory lending)によって、返済できない人々が家を取られる事態が起きることを州の司法長官らが警告した、というのである。

略奪的貸付の金権主義

この略奪的貸付こそ、いま米国で起きているサブプライム問題の根源である。破綻を危惧した幾つかの州は、消費者を保護するために略奪的貸付行為に対するより厳しい法律を制定したが、これに対して2003年、ブッシュ政権は中央政府の権力を使い、州の法律よりも優先して銀行が略奪的貸付をできるようにする規定を米国通貨監査局(OCC)から成立させたのだった。州の規制によって消費者が銀行からお金を借りることができなくなるのを防ぐためという、もっともらしい理由だったが、実際はその法律が消費者保護ではなくハゲタカのような銀行のためだった。結局ブッシュ政権は一般国民を守るのではなく利益を狙う銀行と共犯を働いたにも等しい。いやそれどころか国家権力を使って州の立法府を攻撃した、というのがその記事の趣旨だった。この論説の筆者が、FBIの盗聴で買春が発覚し辞任したニューヨーク知事のスピッツアーである。

彼は当時ニューヨーク州の司法長官で、エンロンやワールドコムによる粉飾決算事件の摘発にも力を発揮した人物だった。2006年に圧勝でニューヨーク知事に選出されている。長官時代の警告通り、住宅バブルがはじけた米国では住宅差し押さえ件数が2007年には220万件にも上った。米投資銀行ベアー・スターンズが破綻してJPモルガンに買収されるなど、米国経済は警告どおり、瀕死の状態に陥ったのである。

そしてこの新聞コラムを書いた1ヵ月後に、スピッツアーは米国政府の盗聴によって売春クラブを利用していたことを暴露され、失脚した。ターゲットにした人の秘密を握った政府は、それを公開することも、また保護したい人であれば秘密にしておくことも政府はできたはずだろう。ブッシュ政権の敵であり、政治献金をしているウォール街の敵でもあったスピッツアーは目の上のたんこぶであったに違いない。

これで思い出すのがロッキード事件で逮捕された田中角栄だ。石油の供給ルートを確保するために中国との友好関係を築いた矢先の失脚だった。または、米国債を売ることをほのめかした橋本元首相がその直後に中国人の愛人の記事がでたことも偶然ではなかったかもしれない。盗聴やスパイをされていることを証明することほど難しいことはないし、どちらも私に確たる証拠があるわけではない。しかしこういったことがあまりにもタイミングよく起きる。最近では自民党政権の金融改革処理を批判していたエコノミストが痴漢で捕まっている。米国のスパイ技術を考えれば、秘密を暴露されることを恐れる日本の政治家やエコノミストが日本国民を裏切り、米国の権益に日本を売り渡していたとしても納得がいく。

しかし私が強調したいことは、スピッツアーが米紙で述べた内容である。米国中央政府は、国民の保護のために州がとろうとした施策を邪魔して、大銀行の利益のために権力を使った。これこそ米国が金権主義であることを如実に示している現実だということだ。そして平成から始まっている日本政府の一連の「改革」も、まさに金権主義にむかっているということは、また別の機会に述べたい。