イギリスの住宅金融銀行ノーザン・ロックは、つい1年前には約1兆円の時価総額を誇っていたが、サブプライム問題で取り付け騒ぎがおきて2月に国有化された。今後リストラ等をしながら、イングランド銀行から借り入れた4兆7千億円を2010年末までに返済することになっている。ノーザン・ロックは2008年も赤字となる見通しだが、昨年12月に辞任したCEOのアップルガース氏はそれにもかかわらず解雇金として約1億5千万円を受け取ることになると、インディペンデント紙は報じている。
アングロサクソン資本主義の正体
米国のサブプライム問題で巨額の損益をだした金融機関で引責辞任する経営者がなぜこのような高額な報酬をもらうのか理解に苦しむ。シティグループ、メリルリンチのCEOも、サブプライムローンの焦げ付きで辞任した際に手にした退職金は二人あわせて200億円にもなる。そして昨年末、メリルリンチの新しいCEOに就任したジョン・セイン氏は、その際に17億円のボーナスを受け取ったという。
企業経営者に巨額の退職金を払うことをあらかじめ締結しておくことは「ゴールデン・パラシュート」と呼ばれ、企業買収を防衛するための方策らしい。買収者が解任しようとすると巨額な退職金を払わなければならず、それによって買収意欲をそぐからというのがその理由だ。ゴールデン・パラシュート、すなわち黄金の落下傘とは、買収された会社を飛行機にたとえて、経営者だけが金の落下傘で脱出するというものだが、いかにも米国のビジネスエリートが考えそうな仕組みである。もっともMBAで教えることは、いかに短期間で多くの利益を得るかということだから、会社や社員より、自分さえ大金を手にすればよいという経営者の心情を露骨にあらわした施策であることには違いない。
貪欲に短期的な利益を追求し、焦げ付くに決まっているものを「サブプライム」などと呼び住宅ローンに投機マネーを振り向けた経営者が同じように大金を手にして会社を去るとは、盗人に追い銭以外のなにものでもないと私は思う。サブプライム危機で株式市場から消えた資金は商品市場へ流入し、だから原油価格が上がっているといわれているが、それだけではなく、巨額のお金が一握りのCEOたちの懐へ流れ出しているのだ。
サブプライムの悲劇は、何もないところから「お金を創造」することのできる銀行が、返済能力のない人にまでお金を貸し出して安い住宅を買わせ、買った側もその家の価値が上がったら売って借金を返して、残ったお金でまた家を買ってそれが値上がりしたら売って・・・という幻想を信じたことだ。しかしそれが永遠に続くはずはなく、十分な数の人が幻想だと築いたとき、バブルがはじけ、人々は家を失い、銀行は不良債権が膨らんだ。
経営者は自らの企業の健全な運営を監視することが仕事のはずだが、経営者の信条が短期的な利益追求であれば、いくら内部統制を厳しくしたり監査制度を改革しても意味はない。なぜなら、たとえ今回のように経営が悪化してその地位を追われても、その時に黄金の落下傘があれば経営者に怖いものはないからだ。
2つの職を掛け持ちしても貧困線を超えられない国民が増える中、何百億円もの報酬を手にする経営者は、たとえ米国という飛行機が墜落しても自分だけは黄金の落下傘を持って、バミューダあたりに不時着するつもりなのかもしれない。これが日本が必死に取り入れているアングロサクソン資本主義の正体だ。