サブプライムローンの焦げ付きから国有化されたイギリスの銀行ノーザンロックの問題と、前回のコラムで触れた慈善事業、二つが関連する記事を見つけたので、今回のコラムではそれについて取り上げる。
アングロサクソン流錬金術
英ガーディアン紙によると、ノーザンロック運営の、「Granite」という名称のオフショアの慈善基金(トラスト)について、英国チャリティ委員会が調べているところだという。なぜなら住宅融資の銀行であるノーザンロックの半分以上の資産はGraniteの所有となっているからだ。このトラストはダウン症の子供と家族のための支援団体に寄付をするという目的で設立されているが、ノーザンロックがこのトラストを作った1999年以降、1ポンドの寄付も支援団体向けに行っていないことが判明している。その一方でGraniteは、国際金融市場で710億ポンド(14兆円以上)もの資金を調達してきた。
ノーザンロックは、貸し付けた住宅ローンを担保にして証券化したデリバティブ商品を売りさばくというビジネスモデルによって急成長を遂げた。しかしサブプライム問題で焦げ付きがおこり、この2月に国有化された。Graniteという慈善基金はノーザンロックとは別の団体だが、チャリティということでこの団体を管理しているノーザンロックは、その担保資産をバランスシートに含むことができる。しかしその一方で、その担保資産に裏付けられた商品を買った人に対する直接の責任はノーザンロックには発生ない。
ガーディアン紙の記事で驚いたのは、同紙がイギリスの大手銀行10数行を取材したところ、それらの銀行もチャリティ目的で同じように慈善基金を設立しているが、やはり寄付は行ってはいないことが判明したことだ。これはどう考えても慈善をかたった詐欺である。さらにノーザンロックの場合、Graniteはジャージー諸島という税金が免除される租税回避地に登記されているため、イギリス政府に対してはいかなる税金も払う必要もない。
これで思い出すのは、米国投資ファンドのローンスターだ。傘下の東京スター銀行で得た利益についてローンスターは、東京国税局から約140億円の申告漏れの指摘を受け、約50億円の追徴課税処分を受けているが、東京スター銀行からの利益はイギリス領バミューダ諸島の投資会社にわたっており、その会社は日本でビジネスを行っていないとして税金を払っていない。どうやらこれはアングロサクソン流錬金術の常套手段のようだ。
これらの出来事は、巨額の富がどのように管理されているか、どのように法律の抜け穴を利用しているのかを如実にあらわしている。さらに慈善団体というステータスであれば、集めたお金のうち実際に寄付する金額は一部でかまわないため、欧米の頭の良い大金持ちはあらゆる手を使って税金を回避し、持てる富を維持、そしてさらに増やしているのが現実なのである。しかし一握りの富裕者がその持てる富を使って行う慈善事業が、世界が直面している真の問題を解決することはない。なぜなら慈善事業は、世界で起きている貧困という症状の一つに絆創膏をはるようなものだからだ。持てる者と持たざる者の格差を縮めることに取り組まなければ、貧困という真の問題解決にはならないのだ。
詐欺行為まがいを行う銀行に国民の税金を投入するイギリス政府、ローンスターから税金を徴収できない日本政府と、あまりにも露骨な金権主義だが日英の国民はどうも完全に麻痺してしまっているようだ。