No.825 飛行機時代の終焉の始まり

米国のデルタ航空とノースウエスト航空が合併で合意し、世界最大の航空会社が誕生することになったようだ。しかし考えてみれば経営不振から会社更生法の適用を申請し、再建手続きをしている両社の合併がどの程効果を生むのか、疑問である。

飛行機時代の終焉の始まり

航空業界は2001年の同時多発テロ、イラク戦争、SARS、そしてきわめつけは石油燃料の高騰によって、世界ではほとんどの航空会社が赤字に陥っている。私が飛行機に乗らないと決めてから5年以上になるが、その思いはますます強まり、社員にも国内出張に飛行機ではなく鉄道を利用することを奨励している。

飛行機が一般的になったのは20世紀半ばで、原油価格は1バレル2~3ドルの時代だった。加えて、政府からの豊富な補助金が航空機の開発や航空業界に投じられて初めて、経済的な輸送手段として飛行機は世界に普及した。

しかし2003年にはイギリスとフランスが共同開発した超音速旅客機コンコルドが、老朽化による危険性の増大と経済性からビジネスを終えた。ジャンボという名称で呼ばれたボーイング747型機も、燃料を多く消費するために日本の空から消えつつあるという。どんなに燃費のよい新型飛行機にとって代わっても、1バレル3ドルだった燃料が100ドルを超し、さらに200ドルにでもなれば、採算が困難なことは明白だ。燃料費は航空会社が直面する最大の経費なのである。

航空会社は合併のほか運賃の値上げやさまざまなサービスの削減など、あらゆる効率化手段をとってきた。今夏の旅行シーズンの後には、老朽化した、つまり燃料をたくさんくう効率の悪い飛行機を1割程度引退させる計画もあるという。これはフライトの減少と航空運賃の値上げを意味し、これまでのように飛行機が手軽な輸送手段であった時代の終焉の始まりにもなる。

産業界や日常生活にも徐々に影響がでてくるだろう。航空運賃高騰によって人々は飛行機旅行を慎重に考えるようになる。フライトが減るだけでなく、採算のとれない都市には飛ばなくなるだろう。飛行機旅行は、ビジネスで利用するか、またはお金持ちの特権となる日も遠くないだろう。そして航空会社の統合合併のあとで、生き残ることができた航空会社は国営企業として、政府の補助金によって運営されるようになるかもしれない。

私の予測は暗すぎる、と言う人もいるだろう。日本はいまだに神戸や静岡など、どう考えても不要としか思えない空港が巨額の資金を投じて作られている国だからだ。それを推進する政治家や財界は飛行機が何で飛ぶのか、その燃料が有限であり、もはやピークを過ぎていることなど考えもしないのだ。

もし飛行機旅行に未来があるとすれば、石油に代わる燃料で飛ぶ新しい技術が開発されるのを待つしかない。米国空軍は、数年前から液化石炭と天然ガスをベースにした代替燃料の実験を行っており、またバイオ燃料の飛ぶ航空機のデモもおこなっているという。もしそれが実現しても、ジャンボジェットに代わる十分な燃料になることはないだろう。

日本人が飛行機で気軽に外国旅行に出かけるようになったのは、つい十数年の出来事である。それは豊富で安い石油によってもたらされた短い夢のような出来事だったのだ、と人々が気づく日が遠からずくるということを頭の片隅にいれて準備を始めることは悪いことではないかもしれない。