No.830 ビッグバンが経済停滞の要因

金融庁は、日本の銀行や信用金庫などの金融機関が米国のサブプライムローン問題でこうむった損失が約8,500億円になると発表した。また証券化商品の損失額は、保有額全体の1割強の2兆4,360億円にのぼるという。

ビッグバンが経済停滞の要因

日々、あまりにもいろいろな事件が新聞やテレビで流されている。そのせいか、国民の生活に重大な影響を及ぼす出来事であっても、小さな囲み記事や、わずか10秒くらいの報道ニュースとして接した記事は過去の出来事となっていく。このサブプライムローンによる損失にしてもそうだ。

福田首相は、高齢化社会で財政赤字を抱える日本にとって消費税の増税は不可避だと述べた。しかし、財政赤字は、与党自民党が法人税や所得税の減税を推し進めてきたことが一因である。無借金の国を先達から引継ぎ、それを負債まみれの国にし、さらにその借金を後世に押し付けているのは、昭和の終わりから平成、現在にいたるまで政権を握ってきた今の与党政府なのだ。

1998年、与党政府は金融ビッグバンを行った。それまで日本の銀行に預けたお金は日本国内で使われていたが、この「金融改革」以降、日本国民の預金が海外に流出するようになった。サブプライムでの損失というのは、まさにその金融改革によって、銀行が預金者のお金を海外の投機、すなわちギャンブルに使うようになった結果の損失ということだ。

1998年、日本の銀行の貸付総額は533兆円だった。それが今年5月の銀行統計では392兆円に減少している。一方、銀行預金の総額は1998年は447兆円だったのが、今年4月は593兆円に増加している。つまり預金が増えているにもかかわらず、貸付だけがビッグバン以降大きく減少した。貸し渋りだけが倒産や失業の原因ではないが、多くの日本企業が貸し渋りにあっている事実を考えると、ビッグバンが日本経済を停滞させた大きな要因であることだけはまちがいない。

日本の企業に貸し出すかわりに、銀行は預金を海外でサブプライムというギャンブルにつぎ込んだ。1980年代におきたバブルを思い出せば、日本政府の規制下にあるとされていた銀行の損失を政府が過小に報告していたことを忘れてはならない。ビックバン以降、政府規制がほとんどなくなっていることを考えると、サブプライムの損失は、当時よりも大きいと考えるほうが自然であろう。

国民が銀行のサブプライム損失を考えるとき、忘れてはならないのは銀行がそのギャンブルに使っているお金は、私やあなたが預けたお金だということだ。政府がそのようなことをなぜ銀行に許しているのか、私は不思議でならない。ギャンブルは勝つときもあれば負けることもある。銀行はサブプライムでは負けたが、別の賭けで大儲けをしたことがあるかもしれない。しかし預金者には何も知らされない。そして大損したときには、政府はそれを税金で補填することを許しているのだ。

社会にとって有効な銀行(または金融制度)の働きとは、経済取引で使われるお金の状態を保護することと、現時点で使わないお金を預金として受け取り、保管することだ。銀行が社会に害を及ぼすような預金の使い方をしないように監視することこそ政府の務めではないか。

平成以降、日本政府は大部分の国民に痛みを強いながら、「構造改革」と称して、一部の利害関係者のためにさまざまな恩恵を施してきた。その結果が貸し渋り、サブプライムであり、今後の消費税増税につながることを有権者は忘れてはならない。