7月末、米国ではブッシュ大統領がサブプライムローン問題に関連して政府系住宅金融機関に対する支援策などを盛り込んだ住宅関連法案に署名した。
不動産市場救済の政策
この法案は、信用力の低い個人向け住宅融資問題で財務リスクの高まった米住宅金融会社のファニーメイ(米連邦住宅抵当公庫)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公庫)に対して、今後政府は無制限に融資をする、というものだ。日本で家を買うのは、普通一生に一度か二度のことだが、米国では何度も売り買いするのは普通である。そこで価格が上がったら転売すればいいといわんばかりに、家を買うだけのローンを組めない人にも銀行が高利でお金を貸し付け、そのローンを債券化した金融商品をファンドなどに売り出した。それがサブプライムローンだった。
ファニーメイは政府系金融機関だったが、民営化され民間企業となり、その業務は金融機関から住宅ローン債権を買い上げ、証券化を行ったり保証業務を行うことである。フレディマックも同じような位置づけで、両社が販売する証券は米国政府の公的保証は受けてはいない。両社は経営危機を否定し続けてきたが7月には株価が急落した。それもそのはずで、5兆ドルもの両社のローン債権は米住宅ローン全体の約半分にもなり、米国の住宅市場が低迷し、住宅価格が下落すればローン債権の劣化はさらに進む。それは両社の経営破綻をも意味する。そのような企業へ米国政府の無制限の融資という決定は何を意味するのか。
端的にいって、この支援は借金の貸し手のためであり、ローンに苦しむ一般国民のためではない。政府の目的は住宅価格を下げるのではなく、下がる住宅価格をもっと上げることにある。政府の信用を使って、さらに国民にお金を貸し出せるようにすることだ。住宅バブルのさなか、米国では、持っている担保より高い査定で銀行はホームオーナーや投機家にお金を貸した。バブルがはじけ、証券化されたそれらの担保が、実際よりもずっと安いことに人々は気づいたのだが、政府が救済する2社は、これらの担保をパッケージし、保証している会社である。つまりその2社の救済は不動産市場のためであり、際限のない支援は米国政府の借金を無制限に増やす可能性がある。
住宅価格が上がることは、富の創造だと、FRB議長だったグリーンスパンは言ったが、価格が下がっても借金は残る。実際作られるものは富ではなく借金なのだ。銀行が簡単に多くのお金を貸し出せば資産価格は上がり続ける。借金の額と不動産価格は一緒に上がるといっても過言ではない。政府が借金の貸し手を支援すれば、貸し手はローンを返済できなくなった人を追い出し、既存の住宅を買い占め、住宅の価値を下げないようにするだろう。
ブッシュ政権は、この法案は市場の安定と40万人の米国のホームオーナーのためというが、実際はいつもどおり自分たちのスポンサーである銀行や機関投資家を助けるためなのだ。普通の国民が法外な借金を負うことなく労働代価で買えるような、良質の住宅を安く供給することなど、まったく眼中にはない。これが米国の資本主義、金権主義なのである。
市場の安定のため、という名のもとに米国政府が取った政策が、日本を含め、世界を不安定にするのは時間の問題であろう。