原油の高騰で、国際線飛行機の燃油サーチャージが大幅にアップした。原油高騰の影響はそれだけではなく、われわれの生活にいくつも大きな影響を及ぼし始めている。
バブルだった石油文明
原油高騰でガソリン価格は当然上昇する。この夏の帰省ラッシュでもマイカーから鉄道などへのシフトがみられ、高速道路の通行量も減少しているという報道もあったが、車社会の米国はもっと深刻である。アラバマ州の市役所では勤務体制を週5日から週4日にし、その分一日の労働時間を延長して通勤用ガソリン代を節約するという方法をとり始めたという。サービスの低下はシフト制にすることで対処するというが、車がだめなら電車やバスでという代替交通網がないだけに、このような施策の実行になったのだろう。またゼネラル・モーターズが4工場を閉鎖するなど、今回の原油高騰が自動車業界へ及ぼす影響は甚大だ。
さらに米コーヒーチェーンの「スターバックス」は、2009年に米国内の600店舗を閉鎖すると発表したが、日本でも不採算店を閉鎖する外食チェーン店がでている。車で行く郊外店舗の利用客減少と、値上げによる消費者の節約志向などが原因であろう。
これらが石油減耗に起因しているということを理解するのは難しいことではない。しかし主要報道機関や政府は相変わらず国民に説明することはなく、私の周りで石油価格や食料価格の急騰をまったく憂慮しない人々がいるのには驚く。そういう人たちは、この地球が、もはや支えきれないほど人口が増えていること、地球環境が悪化の一途をたどっていることなどに気づいてはいても、特に騒ぎ立てる問題ではないと思っているのだろうか。
現実は、世界の100カ国以上の国で、すでに深刻なエネルギー不足が起きている。たとえばパキスタンとバングラディッシュの電力不足は深刻だ。人口約1億5千万人の両国は、そのために綿織物工場が閉鎖されるなど輸出産業が打撃を受け、食料不足も問題になっている。インドと中国の電力状況も悪化している。中国は大地震後に原発の建設計画を見直しており、それによって石炭や石油の輸入を増やせばさらなる価格高騰につながるだろう。インドのエネルギー不足の一因は温暖化によるヒマラヤ氷河の融解である。重要な水源であるヒマラヤは産業や発電だけでなく、灌漑用水や飲料と下流域の何億人にも影響を及ぼしているのだ。
この他、主要石油生産国は別としても、アフリカや中南米のほとんどの国でエネルギー不足が起きている。南アメリカやチリといった希少金属の産出国は、電力と燃料の不足によって生産量を減らしており、その影響が先進国に及ぶ日も遠くない。
日本政府は緊急対策として「家庭の太陽光発電の導入を2030年には現在の40倍に拡大する」等の目標を打ち出したらしいが、今の指導者たちがもうこの世にはいないかもしれない2030年をターゲットとした目標のどこが緊急なのかと思う。すべきことは太陽発電へシフトして今の高エネルギー社会を維持するのではなく、生活様式そのものを見直し、変えることではないか。
石油にどっぷり依存した便利な文明社会はつかの間のバブルだった。それを認め、シンプルな暮らしを選ぶことは後退ではない。むしろ、支配者層の肥大したエゴがもたらした弱肉強食社会よりはずっと人間らしい社会にできると思っている。