米国最大の企業、スーパーマーケットチェーンのウォルマートは米国最大の雇用主でもある。ウォールストリートジャーナル紙によれば、そのウォルマートが、ストアマネジャーやスーパーバイザーを招集して会議を開き、11月の大統領選挙で民主党政権が成立すれば労働組合が結成されやすくなり、それはウォルマートの従業員にとってよくないことになると伝えたという。
ウォルマートの抵抗
急速に成長したウォルマートは大規模店舗展開の優良ビジネスモデルとしてもてはやされた。しかしその実態は、米国最大の雇用者として労働者を安く使ってきたことであるのは多くの人が知るところだ。男女の性差別、残業代未払いなどで集団訴訟も起こされている。ウォルマートの退職率は並外れて高く、賃金の低さだけでなく、健康保険などの福祉もほとんどないため、政府からの福祉手当てを受けられるほどの収入しかない従業員も多い。
しかし端的に言ってこのビジネスモデルは資本主義の原則に従っているに過ぎない。資本主義の最大の目的は、資本家の利益と富を最大にすることにある。そのために売上を増やし、支出を最小に抑えているのだ。
売上を増やすには、具体的には、宣伝広告で消費者の購買意欲を刺激する、業界や市場をできる限り独占する、そして、売上を増やすことを阻むさまざまな規制を廃止するよう政府に働きかけ、公共サービスや公共財もできる限り民営化することだ。回りを見れば、われわれの日常はまさにこの状態にある。
支出を最小にするために資本家は人件費を抑制する。そして空気や水を汚しても、逃げとおせるならば知らんぷりをして、環境のための費用は出さない。ウォルマートの経営陣が、「労働者を保護し、規制緩和の邪魔をして自分たちの利益追求を阻む政党が政権をとったら大変」というメッセージを送ったのは、彼らにとって自然なことだった。
民主党のオバマ候補は、国内雇用の保護を重視し北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを公約の一つに掲げている。またその一環で、署名だけで労働組合を結成できる『被雇用者による自由選択法案(Employee Free Choice Act)』を支持しており、成立すれば労働組合の組成がずっと簡単になる。
ウォルマートでは、数年前に食肉処理者が組合を結成しようとすると全店の食肉処理部門を廃止し、パッケージされたものしか売らなくなったし、カナダでは組合を作った店舗を不採算店として閉店している。労働組合はウォルマートにあってはならないものなのだ。
大恐慌の後、米国はニューディール政策で政府が経済に介入し、新しい資本主義が始まった。労働時間の短縮や職場の安全規制が作られ、多くの労働者は定年まで同じ会社で働き、会社負担の健康保険があり、家を買って定年後は年金で暮らす、そんなことができたつかの間の時代だった。そしてそれを実現したのが労働組合だった。
企業は労働者と顧客(消費者)のためのもので、持てる富を投資や投機に使えるごく少数の人々(資本家)のためのものではないと私は信じている。ニューディール政策が遠い過去となり、1%の金持ちが国の半分の富を手にするようになった米国で、現体制を維持したいウォルマートの抵抗がどう奏功するのか見守りたい。