No.837 ミサイル防衛計画の愚

去る8月、北京オリンピックの華々しいニュースに隠れるように、旧ソ連のグルジアが、南オセチアに大規模な攻撃をおこなったという報道がなされた。

ミサイル防衛計画の愚

南オセチアは親ロシア、一方のグルジアは2002年頃から軍事訓練や装備で莫大な金額の支援を米国政府より受けてきた。つまりグルジアとオセチアの武力衝突の裏には、アメリカとロシアの確執がある。また、このあたりはカスピ海の原油供給などもからむ、戦略上重要な場所なのだ。

その数日後、米国とポーランドの間で、米国の迎撃ミサイル基地をポーランドに建設することで合意したと報道があった。米国はイランなど「ならず者国家」のミサイルの脅威に対抗するため、ポーランドに地上配備型の迎撃ミサイルを導入することを提案していた。この計画が明らかになってから、ロシア政府は繰り返し警告をしたが、グルジアの抗争がロシア軍の介入で実質敗北したため、米国が基地設置の署名を急がせたとみられる。

なぜ米国政府は、遠く離れたポーランドにミサイル防衛基地を作る必要があるのか。ブッシュ大統領ならポーランドがイランから遠いことを知らない可能性があるが、たとえヨーロッパの同盟国を守るためだとしても、現段階においてミサイル防衛技術は信頼できる精度にはなっていない。

米国がミサイル防衛システムに着手して60年以上たつが、いまだに完成には遠い。過去5年間に米国は発射された実験ミサイル5つのうち2つを迎撃したというが、いつどこに落ちるかわかっているものを撃墜するのと、実際の核攻撃とは似て非なるものである。飛んでくる核弾頭を打ち落とす装置を本気で作るのであれば、軍拡競争でソ連が崩壊したように、米国政府は経済的に破綻するだろう。

武力や戦争がなにも解決しないことは歴史をみても明らかなのだから、本気で世界平和を求めるなら、対話という外交努力以外にない。そして対話なら、こんなに莫大なお金を無駄にする必要もない。

米国政府が何百億ドルもかけてミサイル防衛を開発する理由は、ただ一つ、大企業、つまり政府に資金を提供する軍需産業を含む企業の福祉のためだと私は思っている。これはブッシュ政権になってからさらに加速している。それを正当化するために政府は、国民に対して敵の脅威を誇張して伝えている。911以降、メディアはアルカイダやテロの恐怖、イランや北朝鮮といった国家の脅威を国民に喧伝し続けるのはそのためだ。

ロシア政府も似たような構図にある。米国がミサイル防衛基地をポーランドに置けば、それに対抗してロシア軍も巨額の軍事予算を請求できるからだ。こうして、世界のあちらこちらが戦場へと変わっていく。日本政府も例外ではない。2003年にミサイル防衛導入を決め、2007年度予算案で1,826億円が計上された。潤うのは防衛産業である。

かつてアイゼンハワー大統領は、軍産複合体が社会を危険にさらす可能性を警告した。われわれは、互いの相違を武力ではなく知性と寛大な意図をもって調停する方法を学ばなければならないという彼の演説は、21世紀の現在でも各国の指導者たちに向けられるべき言葉なのである。