No.843 原発推進派に欠けている視点

私が定期的にインターネットを検索し、記事を愛読するジャーナリストが数人いる。環境問題に関してほとんど同感だったあるジャーナリストが、最近、急に原子力推進派のような記事を書いたのに驚き、がっかりした。

原発推進派に欠けている視点

「ニューステーツマン」という雑誌に掲載されたマイク・ライナスという、地球温暖化に関する著者もある環境問題を専門とするジャーナリストで、記事は、環境主義を標榜する緑の党は、原子力発電を愛することを学ばなければいけないという趣旨だった。

私を含めて、多くの環境主義者は信条のように原発反対を掲げている。それに対してライナスは、1年間の発電量とそれにかかわった死者の数を比較して、もっとも安全なのは原発と風力発電だと述べた。また核廃棄物の処理、発電所閉鎖にかかるコストなどすべてのライフサイクルでみると原子力発電がもっとも安く、次が石炭、風力、ガスとなるといい、その上で、原発の地球温暖化への貢献度は、ソーラーシステムのような再生可能エネルギー資源と同等だと高く評価し、現在の電力供給を維持するには原発しかないとし、新たな「第四世代原発技術」を絶賛した。それは高速炉のことで、日本の「もんじゅ」もその一つであるらしい。

私は、安全で永久的に電力を提供するすばらしい技術なるものは、「若さの泉」や「賢者の石」、「永久機関」と同じく信じていない。原発については、実際に稼動して何年か経過して安全性が確認できるまでは、現在稼動している第二世代、第三世代の発電所の放射能流出事故や核兵器への転用などの問題を考えればなおさらだ。

このコラムを書いているタイミングで、もんじゅが安全性のために再開が来年2月に延期されたという。ライナスが推奨する高速炉の「もんじゅ」は、1995年のナトリウム漏れ事故以来、運転を停止していたが、この10月に運転再開が予定されていた。

もんじゅの事故は、その土地で暮らし、土地の野菜、海の魚を食べる私たちにとっては大問題だが、イギリスに住むジャーナリストは死者さえでなければ安全だと主張するのかもしれない。もんじゅにはすでに9,000億円近い費用が投じられているが、この現状をみると環境ジャーナリストが原発を推進する理由はまったく理解できない。以前私のコラムに対して、読者から、ゴア元大統領はじめ地球温暖化の危機を煽る人々は、原子力発電を推進する目的のためだというメールをもらったことがあるが、私は証拠のない「陰謀説」は好きではない。

なぜ原発が必要か。それは先進国の生活水準を維持するためだ。現在欧米や日本の使う電力量は、世界の残りの国々の、または、今から数十年前に先進国で使われていた量の何十倍にも増えている。飛行機や自動車、ネオンサイン、24時間のエアコンに、さまざまな「便利なこと」、これらは膨大なエネルギーを必要とする。それを享受しているのは地球のごく一部の金持ち国の人だ。これらの便利なことは原発を建設してでも、われわれの健康や幸福に必要なのだろうか。そうではない。われわれに必要なのは新たな原発ではなく、石油中毒になる前の、ずっと少ないエネルギーを使った持続可能な生き方を学ぶことだ。

米国に端を発した世界的不況がおきれば、いやでも経済活動は縮小するかもしれない。それは時間とともに明らかになるとしても、その時にパニックにならないためにも、自らスローライフを選択すること、それを私は提案したい。