米国で、7千億ドルの税金を金融機関につぎ込む「金融支援」法が先月始めに成立した。下院で否決された後、成立させるために各地方の議員に根回しがおこなわれ、金融危機とまったく関係のない修正も加えられた末の可決だった。
貪欲なウォール街の崩壊
ここ数ヶ月でウォール街では1兆ドルを超す金融資産が消滅した。世界最大の保険会社AIGへの救済も含め、ウォール街は国有化されたにも等しい。1929年の大恐慌以来、最大規模の救済措置(ベイルアウト)だといえる。ではこれで最悪の事態は回避されたのだろうか。
答えはNOだ。不良債権に裏付けられた証券を7千億ドルで買い取ることは、金融システム崩壊を引き伸ばす絶望的な努力であって戦略ではない。リーマン・ブラザーズを破綻させ、AIGを国有化し、メリルリンチをバンク・オブ・アメリカに買収させる画策をするなど、この危機に対する米国政府の行動はまったく行き当たりばったりにもみえる。
米国経済の崩壊をもたらした原因はいくつかある。2002年に上梓した『銀行は強盗、外資はハイエナ』(小学館文庫)という本にも書いたが、マネー資本主義、グローバリズム、そして日本でもすすんでいる規制緩和。それらが金融業界の貪欲さを後押しし、実現させ、そして今日の混乱をもたらした。
今回のウォール街の崩壊についていえば、1990年代末におきたIT新興企業の株価高騰からITバブル崩壊をへて、米国が2001年頃から景気後退に入った時から始まった。連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパンが、45年間で最も低い1%という低金利政策をとったことで不動産バブルが始まったのだ。米国左派のエコノミストたちは早い者は2002年には、バブルの警告を発したが、もちろん貪欲なウォール街(つまり米国政府)はそれを無視した。
こうして「マネー資本主義」のもと、不動産を担保にした貸付が熱狂的に行われ住宅価格は2桁で上がり始めた。住宅オーナーは金持ちになったような気分になり(実際はなっていない)、そのために消費ブームがおこり経済活況が維持された。
もう一つ不動産バブルをあおったのは「グローバリズム」、つまり日本など海外から巨額の資金が米国に流入したことだ。これを可能にしたのはもちろん「規制緩和」である。この資金を使って米国の投機マニア(金融機関)は早く多くの利益をあげるために、収入のない人々にまで家を担保に貸付が行われた。そしてその住宅は証券化され、ウォール街が考え付いた複雑なデリバティブ商品である債務担保証券(CDO)として銀行や日本を含む世界の金融機関に売りさばかれた。
安く設定された変動金利は、金利が上がり返済がとどこおれば住宅はたちまち不良債権と化す。この不良債権が、世界中に数兆ドルもばらまかれた証券の正体だ。こうして世界中の金融システムのなかに、病原菌のように、不良債権がばらまかれた。病原菌(不良債権)が増え続ける限り、今後どうなるか誰も正確な予測はできないだろう。
おそらくはさらなる米金融機関の破綻、国有化、そして外資による買収が起きることはまちがいないし、このまま米国が大恐慌に突入しないとしても、長引く景気後退によって、ヨーロッパや日本にも大きな影響がでるだろう。いや、すでにで始めている。