アフガニスタンへの軍事支援費の一部として、アメリカ政府は日本に5年間で200億ドル(約2兆円)の分担を求めているという。
米国国益は大企業の利益
アメリカの要求は、勝手に始めたアフガン戦争を、金融危機でお金が払えなくなったから日本に負担しろといわんばかりのいつものやり方だ。もし日本政府が国際貢献のためだというのなら、その費用をアメリカの戦争支援に使うのではなく、たとえば農業などその地の人々を支援する活動に向けることが、真の意味でアフガニスタンの人々の貢献になる。それはアフガニスタンで拉致され殺されたNGOの伊藤さんらが行っていることでもある。
日本に対しては宗主国のごとくふるまうアメリカだが、その金融危機は世界恐慌以来最悪の状況を呈し始めた。金融のみならずエネルギーと食料問題も同時発生しているため、石油に依存した社会基盤や生活、農業、それが実体経済にもたらす影響は計り知れない。いずれにしても、各国政府がことの深刻さをいかに小さくするか、または小さく見せようと試みても、2009年が1929年の再来となる可能性はますます高まった。
11月には、私が米国籍を棄ててから初めての大統領選挙がある。(注:このコラムは10月に書かれた)距離的には遠かったアメリカだが、今回は精神的にも離れて傍観している。元アメリカ人ということで意見を求められることが多いが、米国こそは国家が特定の大企業の利益のために運営されている「社会主義国」であり、次期政権がどちらになろうともその方向性は大きく変わらない。したがってソ連がたどったような崩壊への道を突き進むしかないだろう。
日本では「天下り」が有名だが、アメリカのそれは「回転ドア」と呼ばれ、チェイニー副大統領は戦争で大もうけをしているハリバートン社の元CEO、ライス氏は石油会社シェブロン社の役員、民主党クリントン政権のルービン財務長官はゴールドマン・サックスの出身で現在はシティグループの会長である。現在のポールソン財務長官も同じくゴールドマン・サックス出身で、これら政府と業界とのつながりをみれば、アメリカの国益とは大企業の利益であり、だからこそ今回の金融危機に対しても、借金に苦しむ国民ではなく金融機関に巨額の税金が投入されている。そのウォール街救済法案には、共和党のみならず民主党のオバマも賛成票を投じた。
これは何を意味するかといえば、権力を握るのは政党や政治家ではなく大企業であるということだ。有権者ではなく企業が、アメリカ大統領を選んでいる。企業のお金と推薦がなければ大統領になることはできず、ウォール街の救済法案に反対した民主党のクシニッチのような大統領候補はテレビの討論会にでることもできないのだ。
たとえ8,500億ドル、いや、それ以上を投入しても、株の暴落は止まらないだろう。富裕層に減税をおこない、数兆円の戦費を使ってイラクやアフガニスタンで戦争をおこない、自由主義経済を標榜して規制を取り払い「貪欲」に突き動かされた結果がこれである。
少数の企業経営者だけが富を手にし、一般大衆は海外へ流れ出て空洞化した産業のために雇用を失い、健康保険もなく、立ち退きの憂き目にあう。テロとの戦いで志願してアフガニスタンへいかずとも、アメリカ国内がもはや階級戦争という戦場となった、それがアメリカという国なのだ。