米国の真の支配者は政府を買収した者たちだ。大統領はその雇われ人にすぎない。選挙に目をくらまされることなく、彼らが権力を握っている限り、米国は戦争犯罪を繰り返す「ならず者国家」である事実を見つめるべきだ。
誰がなっても変わらない海賊国家の本質
(週刊金曜日 11月14日号より許可を得て転載)
── 今回の米国大統領選挙ではオバマ候補が勝ち、米国内外で大きな反響を呼びました。しかしトッテンさんは、以前から「実際に米国を動かしているのは、国民から指導者として選ばれた大統領ではない」と指摘しておられます。
そうです。実際どの党の誰が大統領になろうが、政府がやることはそれほど変わりありません。たとえばNAFTA(北米自由貿易協定)を発案したのはブッシュ(父)大統領でしたが、それを実現したのは次のクリントン大統領です。湾岸戦争を起こしたのはブッシュ(父)大統領で、終わった後もイラクの病院や水道など市民の生活基盤を不当な空爆で破壊し続けたのはクリントン大統領で、次にそこに侵略したのは現在のブッシュ大統領です。
さらに1929年の世界恐慌を契機に、銀行と証券会社の兼務を禁じたグラス・スティーガル法を廃止して金融の規制緩和を進め、今日のサブプライムローンの問題を生み出すきっかけを作ったのはクリントン政権ですよ。共和党でも民主党でも、大した違いはありません。
── やっていることは同じだと。
さらにカーター大統領は、前任のニクソンとは違う政治家のタイプと思わせることによって当選しました。しかしながら、「中東の石油は米国のもので、アラブの国が石油を売らなくなったり、どこかの国が介入してきたら戦争する」という、悪名高い「カーター・ドクトリン」を発表しています。この発想は、後任のレーガンと変わりません。クリントンもブッシュ(父)と違うイメージを意図的に演出しましたが、当選後に彼のやったことについては触れた通りです。
── でも、形は二つの政党が互いに競い合う「二大政党制」の選挙ですよね。
ですから、薄い青の色と、もう少し濃い目の青の色のどちらを選択するのかというような問題に過ぎないのです。かつてのソ連では、政党は一つでした。米国もこのように、政党は実際には一つしか存在していないのです。ですから、米国は旧ソ連と本質的には同じだと考えていい。
■期待できぬこれだけの理由
そもそも米国のテレビや新聞を見ると、オバマとマケインしか候補者がいないかのような錯覚を受けます。ですが、まだ他に立候補者はいるのにマスメディアが絶対討論にも参加させない。僕は今回立候補していたラルフ・ネーダーやシンシア・マッキニーのような候補者が当選したら米国はもっといい国になると思いますが、財界が認めないような人物はまず表には出られないようになっている。要するに、政府を買収した者たちが支配する仕組みなのです。
── 初めて黒人が大統領になったということで、それを実現した米国を評価する声もありますが。
正確を期すなら、彼は厳密には「黒人」ではありません。母親が白人ですから、なぜハーフと呼ばれないのか、よくわかりませんが。
ただ問題は皮膚の色ではなくて、政治家としての中身です。確かにオバマはイラク戦争が始まる前まで反対していましたが、後に上院議員として政府のイラク戦争予算に反対したことは一度もありません。アフガニスタンでの戦争も反対しないどころか、もっと強化しろと主張している。イランに対しても、攻撃しなくてはならないと叫んでいるのですよ。話がうまいとか、見栄えが良いとか言う前に、なぜそうした事実を見ようとしないのか不思議です。こうした人物を、どうして期待できるでしょうか。
オバマの本質は、そのうちすぐ分かると思います。ポールソン財務長官はゴールドマン・サックス出身で、クリントン政権のルービン長官もそうですが、米国の財務長官はサブプライムローン問題を引き起こしたウォール・ストリート出身の経営者が多い。経済政策の決定権を握っているのが、そこから公的資金を投入してもらっている金融機関の人間だなんてそもそもおかしいのですが、オバマが次期財務長官に誰を指名するか、ぜひ注目してください。
■米国の言うことは聞くな
── オバマが大統領になっても、期待できないと。
正確に言うと、「期待はしたいですが、無理でしょう」ということです。
そもそも米国の大統領は巨大な権限があるとされていますが、国防総省やCIA、NSA(国家安全局)、FRB(米連邦準備理事会)など巨大な官僚組織があり、自分の一存で急にそれまでの政府の政策を急に変えることは困難なシステムになっていますし。
同時に米国の大統領は、選挙に勝つために一般の国民に役立つかのような期待をもたせ、当選したら財界の御用聞きになるのです。なぜなら大統領選挙では、財界から一番多くおカネを集めた候補者が当選するのですから。例外は、フランクリン・ルーズベルトぐらいではないでしょか。彼は裕福な家庭に生まれ、自身も金持ちでしたが、大統領として一般の人々のためになるようなことをしましたから。
── こうした認識は、一般の日本人が抱く「米国像」とずいぶん違うように思います。
それはそうでしょう。大多数は漫画漬け、テレビ漬けの国民ですからね(笑)。多くの日本人は、米国の歴史をあまりに知らなすぎます。基本的あの国は、海賊なのです。欲しいものを強奪する。弱肉強食で、だから何かといえば自由競争を唱える。互いの協力や扶助を必要とする農耕民族の歴史を持つ日本のような国とは、まったく異なるのです。
── それでもこの国では米国は民主主義のお手本」とされ、一時「アングロサクソン経営」が絶賛され、今も「米国に付いていけば間違いない」などと唱える論者が大新聞で幅を効かせています。新大統領が日本に対しまた何か言えば、かしこまって聞くのではないでしょうか。
でも、米国の言うことを聞いて、何かいいことがありましたか。日本がおかしくなったのは、「前川レポート」(注=中曽根内閣時に財界人を中心に作成され、規制緩和や“民間活力”が強調されていた)が出た以降です。その内容は、米通商代表部(USTR)が日本に要求していたこととそっくりで、後の小泉・竹中「改革」とも似通っていましたが、それで日本人の生活が良くなりましたか。
■軽蔑されるおめでたい国
結果として自殺者は倍になり、OECD(経済協力開発機構)加盟国中で最悪の数字になりました。失業率は上昇し、公的負債もさらに増加しました。米国流の規制緩和や競争主義に切り替えた結果、損ばかりしたのではありませんか。
私たち経営者は、事業がうまくいっているのかいってないのか、いっているとすればどれくらいなのかを毎日チェックしています。それをしないと、会社がつぶれるからです。どうしてメディアや国民は、いままで「こうなればうまくいく」と言われたことを実際やってみてどうなったのか、チェックしようとしないのでしょうか。米国の意向に沿った「前川レポート」や小泉・竹中「改革」が本当に国民のためになったのか、改めて検証するべきですね。
── お話を聞くと、対米従属の病は深いですね。
僕の米国の友人の上院議委員が教えてくれました。彼は以前、日本の駐日大使と話をした際に、大使は「われわれがどんなに非常識なことを要求しても、日本の官僚や政治家は言うことを聞く。絶対に断らないんだ」と笑って語ったそうです。ここまで軽蔑されているのですよ。
この世では、おカネを貸す人は借りる人より偉いのです。だから企業は、銀行に頭があがらない。日本は米国債を大量に買うことでおカネを貸し、それで米国は巨大な軍隊も抱えられる。なぜその日本が、米国にこれほど卑屈にならなければならないのでしょうか。
(週刊金曜日 727号 2008年11月14日発売より許可を得て転載)