アメリカ大統領選挙が終わり、来年度からホワイトハウスの住人となるオバマ氏はどんな犬を飼うか迷っているというコメントをしたというが、米国民の多くは、それよりも、彼が掲げた「チェンジ(変革)」というキャッチフレーズが具体的になにを意味するのかを知りたいはずだろう。
どんなチェンジが起きるか
アメリカでは金融危機対策の公的資金など、歳出が膨らむ一方で税収が減少したため、来年1月の新大統領就任時には、1兆ドルもの財政赤字のなかでのスタートになると見られている。オバマ氏の「チェンジ」が、単なるアメリカの政権交代だけに終わらないためには、大幅な方向転換が必要だ。
多くの米国民がオバマ氏に期待を寄せるのは、石油会社を経営し父親も大統領だったお金持ちのお坊ちゃまという世襲以外のなにものでもないブッシュ家の御曹司に代わって、オバマ氏が地味な背景から這い上がり、理知的で、地下鉄に乗ったりスーパーで買い物をしたり、お金の心配をしたことがあるだろうと思えるからで、その当選に気持ちが高ぶるのは当然である。
日本でも、庶民の感覚とはかけ離れた富豪で世襲の総理大臣が国家の舵取りを行っている。党首は国民の直接投票で選ばれたのではないにしろ、民主主義国家において国民が選んだ政党が選んだ人物なのだからそれに不満をいう人は、まず、選挙で投票しなかったことを反省するべきだ。特に20代の若者にいたっては10人のうち7人は投票していないという現実だから、真にチェンジを求めるならば、持てる力を正当に利用することから始めなければいけない。
それにしても、ブッシュ大統領が後任に引き渡すアメリカは史上最悪だ。末期症状の経済には、ものすごい高額の延命装置がつけられているが生き返る見込みはほとんどない。たとえばすでに破綻している自動車業界は、財務省が底なしの救済をしてくれるのを列を作って待っている。
石油減耗に直面した今、自動車の時代は終焉を迎えた。原油価格は経済の低迷で一時的に下がっているようにみえるが、それには投機の力で操作されているために真の需要と供給を示してはいない。いずれ、すぐにではないにしても、自動車社会アメリカは、ガソリンの不足、買いだめから始まり、配給制へと、近代のアメリカ人が経験したことのない生活になっていく可能性は大きい。つまり、アメリカ人が望んでいる「チェンジ」以上のものが、新大統領のもとで起きることは間違いない。
ドル基軸体制のもと、ドルと交換にアジアの工場で作った製品を大量消費する時代も終わった。中国では欧米向け製品を作っていた工場がここ数ヶ月で記録的な数で閉鎖され、中国の輸出はマイナス成長となっている。来年はさらに何千もの工場が閉鎖されると予想されている。失業から暴動も起こるかもしれない。このため中国政府は、保有している価値の減り続ける米国債を売却するかもしれない。
安い中国製品であふれるアメリカビジネスモデルの典型で、最大の雇用主であるウォルマートが政府に財務支援を求める日も遠くない。年金基金や地方財政の破綻、救済を求める大企業・・・オバマ候補が掲げた「チェンジ」は、思いもかけないほどアメリカの構造を根本から変えることになるだろう。日本も、与党自民党政府が価値のなくなるドルの買い支えを止めなければアメリカとともに沈むことになる。日本にも「チェンジ」が必要である。