アメリカでは経営危機に陥ったゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーにつなぎ融資が実施されることになり、今年3月末までに人件費の削減など再建計画に基づくさまざまな施策がとられることになった。
リーダーが作った不況
かつてGMの社長が言った「GMにとって良いことは米国にとっても良いことだ」という言葉は有名である。そのGMが政府の支援なしには破綻するというのだが、金融機関への救済同様、自己責任という言葉は大企業には当てはまらないようだ。
1930年、ロサンゼルスでは路面電車が各都市間を何千万人もの通勤者を運んでいた。アメリカが自動車社会になる以前のことである。これを変えたのは自動車業界や石油会社で、GMは1932年、子会社を使ってアメリカの鉄道路線を次々と買収し始めた。こうしてその後の20年間で、アメリカ45以上の都市の100以上の路面電車がGMのバス路線に取って代わられたのである。アメリカが自動車社会になり、石油に大きく依存することになったのも、一部の企業が利益を最大化するためにとった行動に起因している。
この後、アメリカの自動車会社は安い石油を前提に大型車に偏重し、環境対応や低燃費のイメージで先行する日本車メーカーに後れをとった。しかし実際、GMは1990年代にEV1という電気自動車を開発していた。電気自動車はカリフォルニア州とアリゾナ州でリース販売され、一部のマニアから強い支持を得たにもかかわらず、2000年、このEV1はリコールされ、一台残らず廃車処分になったという。これについては“Who killed the Electric Car”というドキュメンタリー映画が作られている。90年代に電気自動車を作る技術を持っていたGMがなぜ開発を止めてしまったのか。しかしどんな理由があったとしても、それがGMの経営判断だったのだ。
アメリカの不況を受け日本では政治家や大企業のリーダーたちが口ぐちに「百年に一度の経済危機」だと騒いでいる。アメリカを第一の市場とする日本最大の自動車メーカーも赤字に陥り、事業継続のため、さらなる人件費の削減、つまり一般国民に苦痛を強いるしかないという。
しかし事実は、これは百年に一度の経済危機などではなく、政界、財界のリーダーたちが作った不況なのである。なぜなら彼らは、一般国民の利益ではなく大企業の利益を最大化することに焦点を当てて経済を構築してきたからだ。
日本経済は大手の輸出企業に依存し、その輸出企業は最大の市場であるアメリカに物を売るためにアメリカの要求を聞き入れ、民営化や、派遣労働を含むさまざまな規制緩和を押し進めてきた。企業が自社の従業員をリストラしておいて、他社の従業員は自社の製品を買う余裕があると、どうして期待できるのだろう。
繰り返すが、現在日本が直面する不況は、「リーダー」たちの不正直さと無能さによってもたらされた結果である。かつてフォード自動車の創業者ヘンリー・フォードは、社員によい賃金を与えることが自動車の売上げにつながると言った。大量解雇は経済を停滞させ、社会を荒廃させるということをフォードは知っていたのだ。2009年、日本のリーダーが失政と誤った経営判断を認め、アメリカではなく、働いて生計を立てている一般の日本国民のほうを向くことを、心から願っている。