新年にあたっての年頭所感で、総理大臣は現在の経済危機について、政府は全力を尽くしてこの危機を克服し、不況から脱出するという決意を示した。一般国民を“下々の皆さん”と呼んでしまう総理大臣には、日本が直面している危機が、政府がとってきた一連の政策によってもたらされたという事実関係を理解できないのかもしれない。
省エネ生活へシフト
さまざまなことが露呈し、崩壊した2008年を振り返ると、2009年はまさに新たなフレームワークを作るよいチャンスだともいえる。そのためにまず変えなければならないのは、経済を中心に据えた考え方だ。
政治家や多くのエコノミストにとって何よりも重要なのは経済成長であり、経済戦略の鍵はいかに「持続可能な経済成長」の枠組みを作るか、である。しかしそれでは日本が不況を脱して向かうべき正しい道に到達することはないだろう。
一例をあげれば、日本政府は「消費者庁」を創設するための法案を審議しているが、より重要なことは、国民自身が、「消費者」ではなく、この有限の地球に生きる市民であるという自覚を持てるような教育をすることだと私は思う。なぜなら金融危機ばかりに焦点が当てられているが、有限である地球が直面している資源の減耗や気候変動など、環境問題を同時に考えなければ意味がないからだ。
環境破壊をもたらしたのは現在の経済モデルであり、それを修復や再構築したところで解決策にはならない。人間を含むあらゆる生き物の活動が地球に依存しており、経済もその一部なのである。ところが地球の限界を超えて経済だけが無限の成長を遂げるという誤った考えに基づいているために、エコロジー的にも人間の活動はどんどん赤字を増やしていく。
昨年、環境保護団体は9月23日を「アース・オーバーシュート・デー(Earth Overshoot Day)」とし、地球エコロジーに関する啓発活動を行った。65億人を超す人間の活動が地球のキャパシティを超えるのが9月23日であり、それから12月31日までの活動は地球に借金をして行われるというものだ。ちなみに2007年のオーバーシュート・デーは10月6日だった。人口増と過剰消費を改めなければ、地球への借金はますます増えていくだろう。
金融危機と同じく、エコロジーの面でも最大の赤字国はアメリカである。大きな家、飽食、一年を通して使われるエアコンや自動車なしには成り立たない社会、それを維持するためにどれほどのエネルギーが使われているのかを人々は考えることはない。
政治家にとっては、国民に消費・人口の抑制を強いるより、技術革新による希望を訴えるほうが簡単だが、いま必要なのはライフスタイルの変革を訴えるリーダーシップである。経済も地球上の生態系の一部であるという認識のもと、新しいモラルと習慣に基づく経済システムが作られるべきだ。真の経済政策は、過剰の消費をすることなく大多数の国民を十分に満たすものを提供することであって、現在のように一部の人々の利益や富を増やすことを促進するものではないからである。
そして国民一人ひとりも、有限の地球で無限の成長はありえないことを認識し省エネルギーの生活へシフトしていく。政府が頼りにならなければ、まずは自分でできることから始めるしかない。