No.855 オバマ変革は不透明

昨年秋、金融危機に直面したアメリカではブッシュ政権が70兆円というお金を不良資産救済プログラムに投入したことは記憶に新しいだろう。その時受けた週刊誌の取材でも、私は公的資金を入れても金融機関の破綻は続き、政府は有権者が怒るまで、新たな資金を投入し続けるだろうと答えたが、アメリカでは徐々に国民の怒りが醸成されつつある。

オバマ変革は不透明

まず第一に、公的資金を支給された銀行はその使途を公表してはいない。それどころか、それら銀行の役員たちはいまだに会社所有の自家用ジェットに乗り、億単位の報酬を得ていることが報道で明らかにされている。

昨年12月、イリノイ州シカゴで窓やドアを作る会社の工場が突然閉鎖された。銀行が融資を停止したため資金繰りがつかなくなった、というのが会社側の理由だった。銀行とは公的資金を投入された一つ、バンクオブアメリカである。これに対して同工場の労働者は工場に座り込む抗議行動をおこない、結局数日後、銀行は退職金と解雇予告手当分を融資すると発表し、工場経営者も交渉に応じたという。

日本と同じく、中小企業への貸し渋り、貸しはがしがアメリカで増えている。サブプライムが返済能力のない人にまで融資していたために起きたことを考えると、金融機関の四半期ごとの利益追求に明け暮れる行動がいかに社会を狂わせるか、アメリカ人はそれを痛感しているにちがいない。

サブプライムでは貸し手の銀行に資金が注入され、借り手は家をとられたように、小さな工場が倒産するのは自己責任で、GMやクライスラーのような大企業へブッシュは支援を行った。それは企業倒産と大量の失業を先延ばしにしただけに終わるかもしれないが、日本と同じく、政治家にとって政治献金をくれる大企業はお得意様なのである。

その大企業は儲かっている時は政府の介入を拒み自由市場主義を謳歌した。政府が行う事業は、非効率的で経済成長を阻害するとして、民営化、規制緩和を推進してきたのも大企業だった。しかしその自由市場主義が、ナスダック株式市場の元会長バーナード・マドフ氏による5兆円の詐欺などのような事件を起こした。アメリカ国民が政府と資本家に向ける怒りが爆発するのは時間の問題だ。

国民に「チェンジ」(変革)を訴え当選したオバマ大統領の新内閣は、第二次クリントン内閣といってもよいほど「継続」色が強い。変革を起こす気があるのなら、たとえば財務長官だったポールソンがゴールドマンサックスを担当していたときにインサイダー取引や空売りにかかわった捜査を開始しなければ、国民の怒りは、オバマへの期待の高さに比例して拡大するだろう。

クリントン時代と変わらない閣僚が政治を行ったところで、今のアメリカは10年前にもどることはできない。石油の価格が再度暴騰すれば国民の生活水準は維持できなくなり、巨額の財政赤字を抱えるアメリカ政府はアメリカ全土を統制することは不可能にすらなりうる。逆に地方のほうから、中央政府はじゃまだという結論をつきつけられるかもしれない。それが革命という形で起きるのかどうか私にはわからないが、今のアメリカを見ていると、ベルリンの壁が崩壊しソ連がなくなったように、日本があがめる国が一夜にして崩壊し、小さな州ごとに分裂する可能性がないとは、誰にも言えない。