オバマに期待できない
オバマ大統領が誕生した。わが国の左派勢力の中にも新大統領への期待が見られる。オバマは当面、景気
回復のために膨大な財政出動などの対策を打つだろうが、それはされに大きな危機を招くであろうし、わが国
への要求も強まるであろう。
(労働新聞:第1176号 2009年2月5日より許可を得て転載)
──米国経済が大きな困難に直面する中、オバマ新政権が発足しました。日本でも期待する声が大きいですが、どのように見ていらっしゃいますか?
オバマ大統領が就任したものの、政策を行うのはこれからです。前のブッシュ政権がひどすぎましたので、「期待したい」という気持ちも分からないではありません。ですが、私は、オバマ大統領にも期待できないと思います。
彼は「チェンジ」と言っていますが、それ自身は何の中身もない言葉です。靴下をはき替えるのかどうするのか、まったく具体的ではありません。
彼は「イラクからの撤退」を言っていますが、2001年の同時テロ以降、ブッシュが提案した数々の戦争のための予算について、上院議員であった彼は1度として反対していません。予算に「賛成」しておいて、どうして「戦争反対」なのでしょうか。
現に、オバマ氏はアフガニスタンでの戦争をもっと重視しろと言っていますし、イランに対する攻撃の可能性も排除していません。子分のイスラエルがガザで残酷なことを行っても、何も言わないでしょう。
彼はブッシュの政策に「反対だ」というのではなく、ブッシュのやり方を「下手だ」と批判しているにすぎないのです。
それに、政権の顔ぶれです。クリントン政権で財務長官を務め、こんにち金融危機の原因をつくったサマーズ氏が国家経済会議(NEC)委員長に就任予定です。また、ガイトナー財務長官も規制緩和論者で、1997年のアジア通貨危機後の混乱に責任がある人物です。危機の原因をつくった張本人に、その立て直しをさせようとは、まったく理解できません。
──クリントン政権と同じだと?
というだけでなく、米国では誰が大統領になっても、政府のすることはあまり変わらないのです。
91年の湾岸戦争は共和党のブッシュ(父)政権が起こしましたが、その後、民主党のクリントン政権が経済制裁と空爆で痛めつけ、03年のイラク戦争でブッシュ(子)政権が政権をひっくり返しました。
そもそも、80年の「カータードクトリン」では「湾岸地域における紛争を米国の死活的利害にたいする脅威と見なし、武力を含むあらゆる方法で介入する」と明確に述べています。民主党、共和党も、これを引き継いでいるわけですね。
いま問題になっている金融危機にしても、金融市場の規制緩和を進めたのはクリントン政権で、ブッシュはその上でバブルをあおっていたのです。
オバマ氏個人がどんな人物だろうと、前のブッシュ政権と劇的に違うことはできないでしょう。
なぜ日本の、しかも自民党以外の人びとがかれに期待するのか、私には理解できません。
■米2大政党は同じ「色」
──オバマ政権がブッシュ前政権と違わない、その背景は何でしょうか?
米国の真の支配者は、政府を買収した大金持ちであって、一般国民ではありません。大統領はその「雇われ人」にすぎず、米国は真の民主主義国ではないのです。派手な選挙ショーにダマされてはなりません。
米国の政治制度も、国民の意思を巧みに排除する仕掛けになっています。大統領が選挙人によって選ばれることもそうですが、憲法だって、原住民の土地を盗んだ大金持ちがつくったものです。
最大のことは、民主党、共和党という二大政党以外はマスコミからまったく無視されることです。それは、大金持ち、財界が両党以外を認めないからです。そして、二大政党は、基本的に同じ「色」で、色が「薄いか、濃いか」というほどの違いしかありません。
──オバマ氏がアフガニスタンでの戦争を重視するのも、当然というわけですね?
政治権力が先に述べたようなものですから、米国は戦争を繰り返し、バクチ(マネーゲーム)を行うことなしに存続できない国になっています。これは、国家安全保障局(NSA)の文書に、「永遠の戦争」と露骨に書いてある通りです。米国こそ「ならず者国家」と言うべきですね。
■日本は米国債を売る勇気を
──日本は、米国とどのようにつき合うべきだと思いますか?
日本が米国の言うことを聞いて良いことがあったか、よく考えていただきたいと思います。
日本で「規制緩和」とか「自由化」とかが言われるようになったのは、85年の「前川レポート」以降でしょう。小泉政権はそれを徹底させ、郵政民営化などを進めました。
その結果が、こんにちの「格差社会」です。自殺者は先進国中最悪で、非正規労働者は情け無用に解雇され、真冬にもかかわらず、住むところを追い出されている。こんなむごい国はありません。米国流の規制緩和を行った結果、日本と日本国民は「損ばかり」ではありませんか。
──しかし、麻生首相は、昨年の金融サミットで「ドル体制を守る」と明言しています。
しかも、日本は米国債を大量に購入し続けています。ドルが暴落したら、これまでため込んだドル資産がムダになる、あるいは米国市場が大切だという理屈なのでしょうが、愚かなことです。これは「カジノに行って損をしたので、また大枚を投じて取り返そう」というのと同じですね。さっさと引き上げるのがいちばんの解決法のはずです。
しかも、世間では、おカネを貸す人は借りる人より偉いのですが、日米関係では逆ですね。なぜ、これほど日本が卑屈にならなければならないのでしょうか。そもそも、日本の政治や経済は、日本国民の幸福と健康を守るためにあるものでしょう。ところが、日本経済の現状は「輸出中毒」で、正しい経済状況とは言えません。
日本は、米国債を売り払うぐらいの勇気を持ってほしいものです。そうしてこそ、対等な日米関係が築けるのではないでしょうか。
(労働新聞:第1176号 2009年2月5日より許可を得て転載)