No.859 【講演録】私が考えるカジノ経済の弊害(2)

もう1つの大きな問題がある。それは日本がアメリカに巨額の貸し付け、それもドル建てでお金を貸していることだ。つまり、為替リスクはすべて日本が負わなければならない。

私が考えるカジノ経済の弊害(2)

さらなる問題

例えば1ドルが150円から100円になれば、日本に返済される額は3分の2になる。アメリカが破産宣告をすれば、一円も戻ってこないかもしれない。

私はこれまで何度も、日本政府がいくら米国債を購入しているのかを調べようとしたが、日本政府はそれを日本国民に公開してはいない。

一方、アメリカ財務省のホームページでは、日本が約5,860億ドルの米国債を購入していると公開されている。しかしそのうち日本政府がいくら保有していて、企業や個人がいくら保有しているのかはわからない※17

このデータからはまた、円高になるほど日本が損をすることがわかる。例えばこの1年間に1ドルが113円から94円になったことで、日本は米国債を約11兆円失った。11兆円といえば、昨年の日本の消費税の税収分に相当する。しかし日本の「民主的な」政府は、この重要なことを有権者に伝えてはいない。

2008年9月以降、アメリカ政府は税金を使ってアメリカの金融機関を救済している。例えば、過去数ヶ月で、連邦準備制度理事会と米財務省は8.3兆ドル以上をアメリカの銀行救済に投じた。これは日本が過去40年間に積み上げた長期債務残高776兆円を上回る金額である。一方で、連邦準備制度理事会によるとマネーサプライ(M2)は、2008年12月時点で8兆ドルに満たない※18

金融の専門家は、アメリカの巨額の貿易赤字、戦争にかかる費用、そしてこのウォール街救済によって、ドルの価値はさらに2009年も下がり続けるとみている。「アメリカの公的債務と個人の債務がそのGDPの4倍近くもあることは信じがたいほどだ。アメリカとイギリスは、史上最大の債務危機に瀕しており、それから抜け出す現実的な方法は、広範囲な企業の債務不履行、借金の帳消し、負債を管理可能なレベルに減らすためにインフレを起こすことだ」と言う※19

ある信頼できる情報筋からは、USドルの価値は今年中に60%下落するという話もある※20

昨年アメリカへの貸し出しで約11兆円を失ったことに加えて、今年はいくら損失が増えるか試算してみると恐ろしい数字になる。ドルがさらに10%下がれば、保有する米国債の価値はさらに6兆円減少する。ドルが30%下がれば、損失はプラス17兆円となる。これは日本の所得税収を上回る。そしてドルがさらに60%下落すれば、日本の損失額は33兆円、日本国の税収の3分の1に相当する金額を失うのである。

これは日本が保有している米国債に関してだけの金額である。日本の民間企業やその他公的機関がアメリカに貸し出している総額は2兆ドルといわれている。これは米国債によって貸し付けている金額の3~4倍にもなる※21。したがって、もし米ドルの価値が下がれば、日本全体の損失は今私が述べた金額の3~4倍にも膨らむことになる。

日本の政治家、官僚、財界を取り仕切る人々は、アメリカ政府に行っているドルの貸付、または自分たちが行うドル建ての「金融資産」への投資が、日本の経済や社会にどのような影響を及ぼすか理解しているのだろうか。

簡単な解決策

これらを解決する簡単な方法がある。しかし、それを実行に移すには問題がある。

1つ目は、日本政府に本当にそれができるかどうか。2つ目は、政府にそれをやらせるよう、日本国民が明確な意志表示を政治に対して行えるかどうかである。

1.米国債

もし日本政府がこれからもアメリカ政府にお金を貸したいのであれば、ドル建てでなく、円で貸すべきである。それによって日本(の納税者)ではなく、アメリカ政府が為替差損のリスクを負うことになる。これはまた、アメリカがドルの価値を下げることで、日本が貸したよりも少ない額を返済しようとするのを防ぐことができる。

しかし考えてみれば、アメリカは他国にドル建て以外でお金を貸すことはないし、また日本を含め、どの国の銀行もその国の通貨でしかお金を貸さない。日本政府が円建てでアメリカ政府にお金を貸すことは、むしろ当然ではないか。

まず、日本はドルの価値がさらに下がる前に、今日にでも、保有する米国債をすべて売却すべきである。そしてもしアメリカ政府がそれ以降、また日本にお金を貸して欲しいと言ってきたら、円建てで貸し出しをする。

例えば今、日本全体が保有する5,860億ドルの米国債のうち、日本政府が5,000億ドルを持っているとしよう。もし今日それをすべて売れば、1ドル91円で、46兆円となる。それから日本政府はアメリカ政府に対して46兆円を円で貸し付ける。そしてアメリカ政府は、どんなに今後ドルが下がっても、日本へ46兆円と利子分を返済しなければならないという条件で貸し出すのである。

この貸付のもう1つの条件として、日本政府は昨年1年間で、ドルが113円から91円に下落したことで被った損失分もあわせて返してもらう。もしこの条件をアメリカ政府が承諾しなければ、少なくとも日本政府は、11兆円の損失の半分を日本と折半するようアメリカ政府に要求すべきである。

では、日本政府がこのような不公平、またはばかげた方法でアメリカ政府にお金を貸し続ける理由は何なのだろうか。2つ考えられる。

1つは、ドルに対する円の価値を維持することで、日本の輸出企業を助けるためである。もしそうなら、次のような理由から、これは極めて不公平である。

  1. 日本の輸出額と輸入額はほぼ等しく、このような輸出への補助は、日本の輸入企業に悪影響を及ぼす※22。
  2. 輸出企業へのこのような補助は、輸入品を購入するすべての消費者に悪影響を及ぼす。
  3. このような補助は、すべての納税者に悪影響を及ぼす。なぜならアメリカ政府に貸し付けることによってもたらされる日本政府の損失は、納税者、そして将来的には子供や孫たちが税金で返済していかなければならないからである。

輸出企業を助けるために、なぜ輸入企業、消費者、そして納税者が被害を被らなければならないのだろう。

日本政府がアメリカ政府にドルを貸し続けるもう1つの理由は、日本政府がすでにアメリカ政府に貸し付けたドルによる損失を最小限に抑えるためであろう。しかしそれは愚行である。ギャンブラーがこれまでの損失分を取り返そうとさらに博打を続け、結局は破滅するような愚かさにも等しい。

2.外国為替

1981年にノーベル経済学賞を受賞したエコノミストのジェームス・トービンは、為替投機の抑制のために、外国為替取引に対して定率の税を課すことを提案した。

トービンによるこの提案を実現するためには、国際間における合意を必要とするが、これは金融海賊の住処であるアメリカが反対する限り、現在、そして将来も実現不可能であろう。しかし他国の合意がなくても、一国が自国の通貨に対して行うことは可能である。

2007年には、1日に36兆円の円が通貨売買された。日本の1年間の貿易額は約157兆円であることを考えると、わずか4日の通貨売買額が、製品やサービスの年間貿易額に相当することになる。言い換えると、円の年間通貨売買額の1%未満の取引額で、日本の外国貿易全体をカバーしている。つまり通貨売買の99%は、純粋な博打なのである※2

これは極めて危険なことである。なぜなら、もし投機家が投機によって日本円を超円高、または超円安にして日本経済を崩壊させようとすれば、年間予算が100兆円にも満たない日本政府にとってそれを防ぐことは不可能だからだ。日本の国を金融海賊のきまぐれや貪欲にまかせておいてよいはずはない。

私は、トービン税のように、日本円の売買に1%課税することを提案する。つまり円の売り手に0.5%、買い手に0.5%の税金を課す。投機家が通貨売買を行うのは1%未満の円の上がり下がりという、極めて小さな動きを期待してであることを考えると、トービン税を課すことによって円への投機は完全になくなる可能性もある。または全部を排除できないとしても、それによって日本を危うくするほどの円の売買は防げるであろう。

そして、もしそれでも円の通貨売買が極端に減らないとしても、日本政府は年間132兆円の税収を得られることになる。これだけで現在の地方税と国税をあわせた税収100兆円を上回る税収となる。

このような税金を課すことは、日本の輸出入に悪影響を及ぼすと反対する人がいるだろう。しかし輸出入の総額は、通貨売買のわずか1%にしかならない。したがって、全体の99%を占める円の通貨売買を取り除くために1%に負担をかけることは仕方がないといえる。また、金融海賊が日本の通貨を投機の対象として売買することで為替が激しく変動するのをなくすことで、最も得をするのは輸出入企業なのである。

日本政府は、日本国民の買い物に対して5%もの消費税を課している。水や食料といった生きるために必要なものを買うためにも、我々は5%消費税を払わないとならない。そうであれば、日本の通貨を投機のために売り買いすることに1%の税金をかけられないはずはないのである。

3.デリバティブ

デリバティブに対しても、トービン税のような投機税を課すことは金融デリバティブで博打をする気持ちをそぐ1つの方法である。

昨年アメリカ大統領選挙に出馬したラルフ・ネーダーもそのような税制を提唱した。彼は、それによって1年間に5千億ドルの税収となり(現在のアメリカの国税の税収の約4分の1にあたる)、投機家たちには自分が払った税金で金融危機を救済させるべきだと主張した※23※24

繰り返すが、日本政府は日本国民に対して命の存続に不可欠な水や食料にさえ5%の消費税を課している。金融デリバティブ商品の投機的な売買に1%の税金を課せないはずはない。

世界の大富豪ウォーレン・バフェットのパートナーであるバークシャー・ハサウェイの副会長チャーリー・マンガーは、“最も安全な取引である”米国債を除いて、すべての証券取引をする際にレバレッジ(総資本に占める他人資本の割合)は50%に制限すべきだと主張している。破綻したベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズは、破綻前、自己資本1ドルあたり30ドルを他人資本、つまり借金をして投機を行っていた※25※26。さらにマンガーは、ウォール街をラスベガスにしないために、シカゴとニューヨークのオプション取引を同じ水準にし、すべてのデリバティブ取引を禁止することを提唱している※27

4.株式市場

前述したように、日本の証券取引所で取引される株式のうちわずか1%だけが企業が新しく資本を集める際のもので、99%は純粋な博打である。

2007年には、取引額752兆円のうちわずか15兆円(1%に満たない)だけが企業が新規株式を発行して集めた分で、737兆円(99%以上である)はすでに発行された株式の売買であった※7

企業の株で博打をすることは、外国通貨やデリバティブと同じく、社会への付加価値を提供せず、賭けをして勝った人だけがより金持ちになり、負けた人がお金を失うだけである。

社会に流通するお金の量は一定である。その社会で生産物やサービスを提供していないにもかかわらず、博打で儲かったというだけでギャンブラーの手により多くのお金がわたることは、健康や幸福のために貢献している人の取り分が減ることを意味する。これは結果的に社会を不均衡にし、富の格差を拡大する。

この対策として、他の多くの国のように、そして1999年まで日本が行っていたように(有価証券取引税)、新規発行株以外の株の売買に課税すべきである。株の売買に1%の税金をかけても株取引が減らないとしても、日本政府には7兆円の税収が入ることになる。

<出所>

※2

※7

※17

※18
Federal Reserve Statistical Release, Money Stock Measure
http://www.federalreserve.gov/releases/h6/

※19
"US and UK on Brink of Debt Disaster" by By John Kemp, Reuters, (January 20, 2009)

http://www.globalpolicy.org/socecon/crisis/tradedeficit/2009/0120brink.htm

※20

※21
"Be Nice to the Countries That Lend You Money" by James Fallows, The Atlantic (December 2008)
http://www.theatlantic.com/doc/200812/fallows-chinese-banker

※22

※23
"Nader calls for tax on derivatives" by Betsy Z Russell, spokesmanreview.com (October 21 2008)
http://www.spokesmanreview.com/breaking/story.asp?ID=17319

※24
"Speculation Tax", Issues that Matter for 2008, “Nader/Gonzalez favor a securities speculation tax”
http://www.votenader.org/issues/speculation-tax/

※25
"The Feasibility of a Unilateral Speculation Tax in the United States" by Dean Baker, Center for Economic and Policy Research (July 26 2000)
http://www.globalpolicy.org/socecon/glotax/currtax/baker1.htm

※26
"Charlie Munger: Ban All Derivatives" by Julie Crawshaw, Newsmax.com (October 16 2008)

※27
"Dimon, Munger, Rohatyn: No More Vegas" by Robert Lenzner, Forbes.com (October 13 2008)