No.864 私が考えるカジノ経済の弊害(質問と回答)(3)

講演に際していくつかご質問をいただきました。ぜひ読者の皆様にもお読みいただきたく、下記に質問とその回答を掲載します。

私が考えるカジノ経済の弊害(質問と回答)(3)

質問-1

日本を良くするための策は理解できないことはないが、自分自身がやるべきこと、やれることは何か? その影響度は? 輸出力が弱まると国力も弱まり、輸入する力がなくなるのではないか。

回答 

今日本がこのような状況になったのは、急速に膨らんだ「カジノ経済」が、日本人の健康や幸福に直接影響を及ぼす「実体経済」を破壊しつつあるためです。ですから、日本社会を根本的に良くするための小さな解決策は残念ですが思いつきません。また、このまま民間銀行がお金を作り続けることで、政府がその利子を払うために膨らむ巨額の借金を、私たちの子供や孫が返済せずに済む、その他の方法は私には思いつかないし、ましては個人でできることはないと思います。私が提案している解決策は、外国為替取引、デリバティブ取引、発行済株式の売買、その他の金融ギャンブルに1%の課税をすることです。それを実行に移すことは、躊躇してしまうような、過激なことなのでしょうか。

国民の生活必需品に突然3%の税金を課し、それを5%に上げ、今度は17%にしようとしている政府に、なぜ1%の税金を課すことができないのでしょうか。

または、アメリカにドルではなく円建てでお金を貸すことはそれほど過激でしょうか。普通、為替リスクを負うべきは借り手で、貸し手(日本)ではありません。為替差損で何兆円も損をし続けるという構図をこれからも続けることに、おかしさを感じないのでしょうか。

また、民間銀行に、他の誰もがそうであるように、自分が持っているお金だけを貸し出せるようにすることは過激でしょうか。ホテルは客室数しかお客を泊めることはできないし、レンタカーは同時に1台の車を複数顧客に貸し出せません。飛行機も新幹線も1つの座席を二人に売れません。しかし銀行は、金庫にあるお金の約25倍の金額を貸し出すことができ、それから利子収入を得ているのです。

日本がここまで巨額の公的債務を積み上げた大きな理由は、日本政府ではなく、民間銀行にお金を作らせてきたためで、政府が民間銀行からお金を借り、返済時に利子を支払うことを繰り返してきたためです。現在の日本政府がしている借金の78%は、過去の借金の返済のために発生し、新たに国民のために使われているのは22%だけなのです。

つまり、日本政府が自分でお金を作らず、民間銀行にお金を作る権利を与えているために、この巨額の公的債務ができたといえるのです。

日本政府が政府紙幣を発行するのではなく民間銀行に作らせるのなら、日本政府は自衛隊を民間企業に任せてもいいし、または警察や消防署を民間企業にやらせてもいいし、または裁判所や刑務所も民間にやらせてもいいということにならないでしょうか。

確かに輸出力が弱まると日本経済は縮小します。それには、大きな痛みを伴うでしょうが、短期的なことだと私は思っています。日本経済はあまりにも輸出中毒になっています。ですからその中毒を治す必要があります。中毒の治療は、痛みを伴いますが、健康になるためには仕方がありません。

私たちには持続可能な経済が必要です。そしてそれは、健康や幸福のために必要な製品やサービスを購入するために、働きたいと思う国民は誰でも仕事に就けるような経済です。そしてそのような経済だけが持続可能なのです。より大きな経済はエネルギーを使い過ぎ、環境も破壊します。そして実際、経済を支えるエネルギーは減耗しつつあるのです。

つまり持続可能な経済になれば、日本経済は今よりもずっと小規模で済むと思います。そして国民は、今よりも少ない消費で、労働時間も労働量も減らし、しかしもっと健康で幸福になると、私は思っています。

**    **    **    **    **
質問-2

もともと日本企業(他国もそうかもしれませんが)は、社会のために創業したところが多いと思います。オムロンの立石さんや松下幸之助さんなど。しかし、おっしゃっていたように現在の多くの企業が利益追求に必死です。一方で社会企業家のような人達もでてきています。こういった動きをどのようにお考えですか。

回答 

私が日本に初めて来た時、商売の大先輩である松下幸之助氏や立石一真氏といった人たちがまだ現役で活躍され、企業は資金調達のほとんどを銀行からの融資で行い、一部分だけ株を売ってお金を調達していました。そして株主は、短期的な儲けを狙う人よりも、長期的な視点で投資を行う株主のほうが圧倒的に多かったと思います。ですから松下さんや立石さんのような経営者は、短期的な儲けを狙うことだけが目的の貪欲な株主を喜ばせるために、短期的な利益を与えようとする必要はありませんでした。昭和の経営者は、銀行からの融資の返済、持続のための研究開発や設備投資、その他経費をまかなえる利益があればよかったのです。さらに、日本の財界、政界、官僚のリーダーたちは、儒教や武士道がまだ教えられていた1945年以前に教育を受けた人たちであり、現在のような貪欲なアングロアメリカン精神ではなく、ビジネスは社会に奉仕するものという武士道精神のもと、政府による規制が行われていました。私は高度成長時代、または江戸時代のような価値観に戻る必要があると思います。

社会企業家については、グラミン銀行がすぐに思い浮かびました。もちろん素晴らしいことだと思います。しかし全身傷だらけで衰弱している人に、絆創膏を貼るような方法よりも、全身を回復させる大きな治療が今は必要だと思っています。