No.871 戦争終結の公約

アメリカの多くの有権者がオバマを大統領に選んだのは、一つはブッシュのイラク戦争を終わらせるという彼の公約にあった。

戦争終結の公約

大統領選の演説で、イラクへの侵略と征服は国際法の違反であり、共和党ブッシュ政権の戦争を終わらせて兵士をアメリカに帰国させる、とオバマ候補は訴えた。もちろん完全撤退ではなく、イラク兵士を訓練するために一部を残すというようなことを言っていたかもしれない。しかしいずれにしても、イラク戦争は終結させると、オバマを選んだ人は思っていたはずだ。

選挙のとき、あれほど明確に有権者に対して“Yes, We Can!”と訴えたオバマの論調は、就任してから徐々に変わってきた。より現実的になり、やればできるという楽観的な言葉はきかれなくなった。その代わり、国民には「忍耐」を求め始めた。

麻生政権とは違って最近の世論調査でも支持率は高い。公約に掲げた経済の回復、健康保険の充実、そしてイラク戦争の終結には2年以上かかるだろうと見ていながらも、多くのアメリカ国民はまだオバマ大統領に期待している。アメリカのメディアが好意的である限り、疑問を投げかけるアメリカ国民は少ないのだろう。

オバマ就任の時から私は懐疑的であったが、彼が指名した閣僚をみるとなおさらその思いは強まった。そして今、ブッシュと同じくらい、またはブッシュ以上に世界にとって危険だとすら感じる。なぜなら初めての黒人大統領ということで、オバマはこれまでの白人大統領と同じではないとアメリカ国民が盲目的に信じているからだ。

オバマ大統領はイラクからアフガニスタンに兵士を移動させ、イラクで日本の自衛隊が御用聞きのように働いたように、アフガニスタンの戦争にも日本を加担させるつもりだ。クリントン国務長官の来日時に、中曽根外相はアフガン復興に1,800億円の資金援助を表明し、その中にはアフガニスタンの警察官全員の半年分の給与を提供することも含まれていたという。不況で苦しむ人が日本国内にいるのに、なぜ政府はアメリカの戦争を手伝って資金援助をするのか、理解に苦しむ。

2月末、オバマ大統領は2010年8月までにイラクから撤退し、2011年末までに全ての米兵を帰国させるといったが、この撤退は延期されるか、または永遠にイラクのアメリカ支配は終わらないと私は思っている。いまイラクには約14万人のアメリカ兵がいる。9万人は撤退かアフガニスタンに移動されるが、5万人の兵士とアメリカ政府が雇っているブラックウォーター社のような民間の傭兵はそのままイラクに残るのだ。結局、イラクはサウジアラビアに次ぐ石油埋蔵量をもつ国である。テロを言い訳に撤退はいとも簡単に延期されるだろう。

そして確実なことは、イラクもベトナムもそうだったように、アメリカはアフガニスタンの戦争でもまったく勝ち目はないということだ。その戦争を推進する大統領を、今アメリカ国民は支持している。同じようにオバマ大統領に世界平和の期待を寄せる日本人は、彼がイラクでの戦争規模を半分にし、代わりにアフガニスタンとパキスタンでの戦争を拡大する大統領だという現実に、そろそろ気づくべきだろう。