No.875 「家庭菜園」へのシフト

大統領に就任して以来、幻滅させられるばかりであったオバマ大統領の政策であるが、このたびミシェル夫人がホワイトハウスに有機栽培の「家庭菜園」を作ることにしたらしい。

「家庭菜園」へのシフト

戦争中、アメリカでは食料の増産のために「ヴィクトリー・ガーデン」とよばれる活動が行われた。ホワイトハウスのルーズベルト大統領夫人をはじめ、数百万もの家庭が庭をつぶして家庭菜園で作物を作り、それがアメリカの野菜の約4割にもなったといわれている。

就任以来、ようやく賛同できる大統領の活動をみた気がするが、「アメリカの“ファストフード文化”への警鐘」も目的というから、オバマ大統領はファストフード企業からは十分な政治献金を受けていないのかもしれない。

政治家を動かしているのは資金力のある企業、財界であると、私はずっと言い続けてきた。企業は広告主としてメディアを牛耳っている。だからこそテレビや新聞は財界にとって都合の悪いニュースを流すことはほとんどない。

去る3月17日、日本経団連や日本商工会議所はその資金力を使い、主要新聞朝刊に意見広告を出した。地球温暖化対策として、二酸化炭素を3%削減するためには52兆円もかかり、日本の一世帯当たり105万円の負担になる、またすでに日本は世界トップレベルの低炭素社会なのだ、といった内容である。言い換えると、環境対策はお金がかかりますよ、日本は現状で十分ですよ、ということだ。

温暖化によって破壊される地球環境、またそれがわれわれの子供や孫たちへ及ぼす悪影響やその責任を何も考えていないかのように、四半期ごとの利益を出すことだけが目的の財界らしい主張である。日本経団連は、労働者を搾取するようにこの地球環境を搾取することになんの疑問も感じないのであろう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気温上昇を食い止めるには、2050年までに二酸化炭素の排出量を1990年に比べて少なくとも半減させる必要があると指摘している。IPCCは地球温暖化の科学的な研究を行う政府間機構で、アメリカや中国を含む多くの国が参加しており、地球温暖化に関する最新の発見を評価している。つまりIPCCの見解は多数の科学者のコンセンサスであって、現実はもっと危険な可能性もありうる。

それにもかかわらず、日本政府が景気対策としておこなったのは5,000億円の予算を使って、高速道路「1,000円で走り放題」という政策であった。温室ガスの原因は4分の3が化石燃料の燃焼で、4分の1は森林伐採だといわれている。政府がすべきことは持続可能な社会へ転換する後押しであり、輸送手段でいえば自動車や飛行機から、鉄道へのシフトを後押しすることだと私は思う。

環境問題は消費の減退や経済のマイナス成長といった悪いニュースの前ではまっ先に無視される。環境にもっとも大きな影響を与えるのは経済活動であり、だからこそ環境問題を企業が解決することなど到底期待できない。しかしその企業の方向性を変える力を持っているのが消費者である。ファストフードから有機栽培の家庭菜園へのシフトはその一歩だ。