200年以上もの間、白人が占領していたホワイトハウスの住人にアフリカ系のオバマ大統領がなったことはアメリカにとって確かに大きな変化であった。
システムから目をそらす
金融崩壊によって、一般国民が家や仕事を失い始めているアメリカ社会で、オバマ大統領は、アメリカを支配している真の権力者たちがまさに必要としていた人物であったのだと私は思う。なぜなら、彼をしてアメリカ国民に、まだチェンジは可能だと希望をもたせ、その根本にある資本主義というシステムから目をそらさせることができたからである。そして深刻な状況をもたらした張本人である権力者たちは、誰一人として、なんら個別の責任をとってはいないし、オバマがその地位にいる限りは責任を取る必要は決してないからだ。
就任以前から私はオバマ氏の手腕に否定的であったが、日がたつにつれてその失望とあきらめはますます強くなっている。オバマ大統領は前任者にくらべて演説がうまく、「金融緩和をして、また成長しよう、貪欲さを少し抑えて、また消費をしよう」というようなことを言っている。しかしその方法がうまくいくことはないだろう。
資本主義社会において企業経営に携わる身でありながら、今ほど資本主義のおかしさを感じることはない。AIGの赤字は約9兆円といわれるが、負債やバブルがどれくらい大きくなっているかを確認することはもはや数字のゲームのようだ。アメリカ政府はAIGに3兆円近い資本注入をしても、家を失うアメリカ人労働者へ資金を提供することはない。経営者はボーナスを手にし、労働者は簡単にくびを切られる。それがアングロサクソン的資本主義だからだ。
オバマ政権の防衛予算はいまだに天文学的な数字であるし、ウォール街救済にみられるように、残っている富は金持ちの手にわたるという古いパラダイムも変えようとはしない。先月発表されたアメリカ企業の売上げ1位はエクソンモービル社で、昨年の史上最高値を記録した原油高で、売上げは44兆円にものぼった。終わりなき搾取、過剰消費、環境破壊の上になりたつこの不平等なシステムが持続性のあるものに変わるとすれば、それは現在の資本主義の終焉とともに起きることは間違いない。
どのような形で終焉を迎えるのかわからないが、それはソビエトの崩壊のように突然くるかもしれない。または完全に崩壊はしなくとも、国家として弱体化し、あとに残された社会では人々が、環境破壊や資源の減耗、高騰など、いまよりもずっと厳しい生活を強いられるようになるだろう。
ソビエトといえば約100年前、相互扶助の精神を重視する「無政府主義的共産主義」を提唱したクロポトキンという思想家がいた。共産主義が破れ、勝利したはずの資本主義も崩壊したあとに、再び共産主義の時代がくるかどうか私にはわからないが、一方的に少数の人間が多数を搾取する競争に基づくシステムではなく、クロポトキンの言うような協力に基づく社会こそ、大多数の国民が求めているものではないのだろうか。いずれにしても、ホワイトハウスにおけるオバマ大統領の最大の任務は、さらに悪化する国内情勢を前に一般大衆を従順に耐え忍ばせることにある。
アメリカでは、衰退する大国の将来を案じて、グローバルに調達されたものではなく、地元での食料生産や調達システムを作り始めている人々がではじめている。それを考えると、オバマ夫人のホワイトハウス菜園も生存の自衛策として国民に野菜作りを勧めるメッセージなのかもしれない。