少し前に、SARSや鳥インフルエンザが話題になり、いつのまにか忘れられた。そして再び、豚インフルエンザ騒動(途中から豚では都合が悪いのか、新型と呼び名を変えた)が起こりで、マスクやタミフルの備蓄に走る騒ぎになっている。
インフルエンザ騒動
2005年の鳥インフルエンザ騒ぎの時、ブッシュ大統領は約8,200億円を投じて新しいワクチン製造法の開発や抗ウイルス薬の備蓄強化を行うと発表したが、結局世界的流行にはならなかった。私は感染病を甘く見ているわけではない。しかし鳥インフルエンザの時と同じく、今回もメディアや政治家、官僚が人々に恐怖をあおっているような気がしてならない。
インフルエンザにはこれまで多くの人が感染し、治癒してきた。日本でもスペイン風邪が流行り、数十万人が亡くなったのはいまよりずっと栄養や衛生状態が悪かった頃の話である。インフルエンザの感染防止には手洗いやうがい、人ごみを避けるといった常識的なことを励行していくしかないし、鳥インフルエンザや狂牛病もそうだが、人間の食料を安価に大量生産するために鶏や豚、牛を飼育したことによって発生したのだから、その根本原因を考え直すべきだ。
犠牲者の数でいえば、交通事故で亡くなる人のほうがずっと多いし、近年増えている経済問題を苦にした自殺は国の政策で防ぐこともできるはずだ。そういう、深刻だが地味で個人的な問題よりも、感染力があるインフルエンザの恐怖を煽ることは、政治問題、金融危機、イラクやアフガニスタンの戦争などから大衆の目をそらせるよい話題なのであろう。テロとの戦いの次は、豚(インフル)との戦いかと、冗談ではなく思う。
アメリカ政府にいたっては4月末に国家「緊急事態」を宣言した。感染もアメリカ国内で100人ほどで死者が1人で緊急事態とはあまりにも大げさだがその裏には、アメリカ政府の財政が破綻していることがある。国家予算が削減され、現在多くの公務員が一時解雇されているなか、緊急事態宣言になれば緊急予算を使うことができる。それがオバマ政権の目的なのではないだろうか。
豚インフルエンザによって中国やロシアは、メキシコや米国の一部の州からの豚肉の輸入を禁止した。豚肉から感染しないと言っても、もしそれがアメリカの言うようにパンデミック(世界流行)の脅威をもたらすものなら、肉の取り扱い過程においてでも何が起きるかわからないから禁止措置をとることは不自然ではない。
そもそも多くの死者がでたメキシコで、豚インフルエンザが発生したアメリカ企業が経営する養豚工場周辺は、池沼に豚の糞尿を直接垂れ流し、放置された豚の死体が腐敗してハエの大群が発生し、それを殺すために殺虫剤が使用されるという劣悪の環境にあったという。工場内で豚たちがどのような環境におかれ、人間の食料となってきたかは想像に難くない。ひどい衛生状態のもと突然異質の菌が生まれたことも十分考えられる。そして亡くなったのは身体が弱かったり、十分な治療を受ける事のできない貧しい人びとだったのであろう。
豚に限らず、アメリカ(資本)で行われている食料大量生産の現場は、100年前にアプトン・シンクレアが「ジャングル」で描いた、不衛生で利権や犯罪の巣食ったアメリカ食肉業界の実体と変わってはいないのだ。この騒ぎによって日本もアメリカの豚肉の輸入を禁止すれば、それが劣悪な食肉工場の改善につながるかもしれない。しかし残念ながらアメリカに対して弱腰の日本政府にそれを期待することはできないだろう。