7月末、ノースカロライナ州での対話集会でオバマ大統領は、アメリカの景気が最悪期を脱しつつあるとの認識を示したという。
景気最悪期は抜けたのか
アメリカ商務省は貯蓄率が5月には6.9%と、約15年ぶりの水準に上昇したと発表した。3月には4.2%、昨年の4月には0%だった貯蓄率がなぜ急激に上がったのかといえば、昨年秋のサブプライム以降の景気後退で、アメリカ人が節約するようになったから、と思うだろう。しかし実際はそうではない。
アメリカ国民の個人貯蓄率だというこの6.9%という数字は、普通に私たちが考える“将来的な出費”や“いざという時に使うお金”ではなく、銀行やクレジットカード会社に支払われるお金なのである。そういう意味では、借金返済に充てられるそのお金が消費に向けられることはなく、アメリカ人が消費を控え、節約しなければならないことにはちがいない。オバマ大統領の楽観的な見方とは逆に、高い貯蓄率は不況が続くことを示している。
さらに、アメリカの銀行はクレジットの限度額を引き下げているため、これまでのように人々は借金をして消費をすることもできなくなった。したがってアメリカの一般国民は、これからも住宅ローンやクレジットを返済し続けるか、返済をやめて家を失うか、または返済が遅れて利子や高額のペナルティを払うか、いずれにしても厳しい選択肢しかない。景気が上向く要素など、どこにも見られない。
昨年4月まで0%だった貯蓄率が示すように、アメリカ人は借金で買い物をし続けてきた。それには返済が不能になった住宅も含まれる。その経済を支えたのは日本や中国が米国債を買ってドルを還流させていたからで、実際の貯蓄率はマイナスだったはずである。
日本の手本である格差社会アメリカでは、富裕層が貯蓄を増やす一方で、一般国民は借金を積み上げていった。つまり富裕層の貯金が一般国民に貸し出され、その結果、経済全体が借金漬けとなった。そして今、一般国民の所得は借金返済のために貯蓄と呼ばれて債権者の手に戻っていく。
バブル時から住宅価値は大きく下落し、ある不動産エコノミストによればアメリカの約4分の1の借り手は住宅の価格よりも高いローンを返済しているという。これはまさに、昨年シティグループやAIG、その他ウォール街の金融機関が直面した状況だ。しかし彼らは、経済を立て直すという名目でアメリカ政府によって救済された。
ブッシュ、オバマ政権がウォール街救済に投じた何兆ドルものお金があれば、債務不履行に陥っている一般国民の住宅ローンをすべて買い取ることは可能だった。または、格差を是正するためにキャピタルゲイン税を所得税と同じ率まで上げたり、富の再配布のために税の累進性を高めるという施策もとれたはずだ。しかしオバマ政権はウォール街だけを救済し、不良債権を何兆ドルもの米国債と交換した。
国民も政府も借金まみれのアメリカの失業率は2桁になりつつある。それでも景気は最悪期を脱したとリーダーは言う。アメリカをまね、累進性を弱め、財界のための政策をとり非正規雇用を増やして格差を広げてきた日本だが、民主党政権が大きく方向転換をしない限り、同じ道をたどる確率は高いだろう。