アメリカでの医療保険改革をめぐる戦いで、オバマ大統領が窮地に陥っている。経済の回復は医療保険の改革にかかっており、何もしなければ財政赤字が拡大してさらに多くの国民が経済的に困窮することになると大統領は主張しているが、共和党は公的健康保険の導入について、国民が保険を選択できる制度を作ると民間の保険会社と不当に競合するとして、強く反対しているのである。
食料システムの見直し
大統領の支持率は落ち込み、共和党や保険業界からは強い攻撃を受けているにもかかわらず国民から医療保険改革実施を求める声は高い。事実、財源にしても真に国民のことを考える政府であれば、高所得者への増税や戦費削減など、実現は不可能ではない。
アメリカは先端医療のトップをいく国だが、医療費はきわめて高く、GDPに占める医療費の割合は15%とOECDの中で最も高い(日本は8.2%)。そのアメリカの3億600万人のうち、4,600万人もの人々が健康保険に加入していない。これは、普通に職についている中流家庭の人でも保険に入っていなければ病気をきっかけに破産に追い込まれるということだ。
これに関して、いろいろな切り口から議論ができるが、今回私は医療改革ではなく「食の改革」について書きたいと思う。つまり、健康になるために、食べ物を変えるというシンプルなことだ。
アメリカ疾病予防管理センターによれば、年間2兆ドルといわれるアメリカの医療費のうち1.5兆ドルは慢性病の治療に充てられているという。慢性病の多くは生活習慣が原因で、なかでも食事は大きな要因となる。もしアメリカが(同じように医療費問題を抱える日本においても)、食の問題に真剣に取り組もうというのであれば、まず見直すべきは日々の食事である。
オバマ大統領は食の重要性を理解している一人であり、さらに食糧問題、気候変動、エネルギー危機を含めて、その本質を理解しているのかもしれない。その大きな一歩はミシェル夫人がホワイトハウスで家庭菜園を始めたことだ。アメリカ国民に、ファストフードからオーガニックへの転換を訴えたからである。また、以前私がこのコラムで批判した農務長官が、農務省内で菜園を作っているということも知った。
食生活を変えない限り、アメリカの医療費はこれからも増え続ける。そのためには、ファストフードや加工品ではなく、自分で菜園を作り、オーガニックで栽培された野菜を中心とした食事に変えていく必要がある。人々が自然とのつながりを取り戻し、大地と太陽で作られた野菜を多く食べるようになれば、慢性病は格段に減ることは間違いない。
本来人間は大地の恵みを食べて生きてきた。それがいつしか、工場で作られた加工品や豚インフルエンザの発生源となるような劣悪な環境で育った肉を使ったファストフードばかりを食べるようになった。さまざまな疾病がもたらされたのはそれからだ。
医療制度を変えることも重要である。しかしまずは、持続不可能な食料システムを見直すことが、いまのアメリカやそして日本に求められていることだと私は思う。「あなたは食べるものによって作られる」ということわざは真実だと思う。家庭菜園を始めたオバマ大統領は、あとはどれだけ本気でそれに取り組むかだ。