アメリカのオバマ大統領がなんとしてでも成立させたいのは、国民皆保険制度の導入を含めたヘルスケア改革法案である。
金融も医療も思い切った改革を
現在のアメリカでは、国が提供する健康保険は65歳以上のためのメディケアとよばれる公的医療保険と、貧しい人々に対するメディケイドという医療保険しかない。したがって64歳以下のアメリカ人は、基本的に民間の保険会社の医療保険に入らなければならず、そのため約4,700万人、全人口の16%のアメリカ人はまったく医療保険に入っていないのが現実である。
過去において、ルーズベルトやトルーマン、クリントンなど医療改革法案を提出した大統領がいたが、医師会や保険会社の反発を受けてすべて挫折している。当然ながら今回も強い反対を受けているが、それに対してオバマ大統領は、保険会社に正直な競争をさせるために、国が提供する医療保険と民間の保険を競争させるという提案をしたという。
いまだにアメリカを「アメリカンドリーム」の国と賞賛する日本人は少なくない。しかし、国の成り立ちからしてアメリカは、一部の富める者が、大多数の国民を支配する体制となっていることにそろそろ気づくべきだ。
たとえばウォール街の金融機関は政府から1,000億ドルを超す救済金を受け取りながら、経営者たちには巨額のボーナスが支払われた。これは銀行の利益に対しても連動していないばかりか、たとえばゴールドマン・サックスは収益23億ドルに対して、48億ドルものボーナスが支払われ、またすでに破綻しているに等しいシティグループやメリルリンチでも数十億ドルのボーナスが支払われる国である。これをメディアも非難しないし、議会もホワイトハウスもウォール街のこの行動を止めはしない。銀行がこのような力を持つのは、民間企業でありながら銀行が貨幣を「作る権利」が与えられているからである。つまり民間銀行は貨幣を作り、それを貸し付けて、利子という形で利潤を得ているのだ。
今、医療改革において保険会社に正直な競争をさせるために、国が提供する医療保険と民間の保険を競争させるという提案がなされている。それならば銀行業界に対しても同じことを要求してはどうだろう。公共の銀行を作り、民間銀行と同じ権利を与えるのである。
これは突飛なことではない。カナダのアルバータには州政府が設立したATBと呼ばれる金融機関があり、州民に対して銀行と同じサービスを提供している。これは1938年の世界恐慌時に始まり、現在でも赤字になることなく営業を続けている。またアメリカのノースダコタにも州立のバンクオブ・ノースダコタという銀行が農業を生業とする州の人々のために運営されている。民間銀行との大きな違いは、利子は利潤として取られるのではなく、州に入るために安定した運営が可能となる。
持続不可能な金融制度を変えるために公共の銀行を作って同じようにお金を作る権利を与え、保険会社だけでなく銀行にも正直な競争をさせる。一部の受益者に代わり、大多数の国民が安心して生活できる社会を作るためには、金融も医療もこれくらい思い切った改革が必要だろう。