No.893 日本は正しい舵取りできるか

主流メディアが大きく報じない世界のニュースをインターネットで探してみると、私たちのまわりで、いま、大きな変化が起きているのがわかる。

日本は正しい舵取りできるか

その一つは、世界最大のレアアース(希土類鉱物)産出国である中国が、その貴重な資源の輸出を禁じる計画を発表したことだ。例えばランタンというレアメタルはハイテク電池に使われ、 ネオジムは電気モーターや風力発電用タービンで使われる重要な素材である。つまり、トヨタの「プリウス」のようなハイブリッド車にも使われているように、これからの「脱石油」「環境」といったキーワードを実現するためには欠かせない貴重、かつ希少な資源だ。これらの資源を90%以上産出しているのが中国(チベットを含む)である。

中国は数年前からレアアースの輸出を減らしてきたが、ここで重要な点は、中国政府はレアアースを含む工業製品の輸出を禁じてはいないということだ。この政策は、自分たちが21世紀における生命線を握っていることを自覚していることの表れだと私はみている。

これらの資源なしに環境に配慮した新技術を実現することも、または精密な兵器さえも作ることはできない。中国政府はこうした工業物の生産を、中国国内で行なおうとしている。これによって中国は、もはや資源と安価な労働力を提供するだけの国という立場から脱却する。日本やアメリカ、または先進国の多国籍企業だけを儲けさせるような、搾取の対象にはならないという、強い意思表明だと思う。

未来の技術を生産するために欠かせないレアアースを使った製品を中国の工場で生産し、それが世界に輸出されるようになれば富は中国に残る。「資源」を国益のために使うことを理解し、実行に移し始めたのである。

この資源ナショナリズムの台頭は、アメリカの衰退が一因だ。歴史を振り返れば、19世紀のイギリスも同じように衰退の道をたどり、1914年、1945年の戦争でその地位はアメリカに取って代わった。

もう一つ、アメリカの衰退を象徴するニュースに世界のデリバティブの総額が1,000兆ドルを超えたというのがある。1,000兆ドルという途方もない額の金融商品に相当する実体ある製品やサービスなど存在しない。デリバティブ商品にはそれだけの価値がないということだ。アメリカが作り上げたこの金融ビジネスは、2007年まで偽りの繁栄をもたらしたが、それが崩壊して帝国を衰退させ、それが中国の資源ナショナリズムとなったのである。

アメリカがデリバティブの危うさに気づくチャンスは以前にもあった。1998年、経営陣にノーベル賞受賞者が含まれるヘッジファンドLTCMが倒産したときだ。優秀な彼らの理論では、LTCMは永遠に儲かりつづけるはずだった。しかしアジアに端を発した財政危機でロシアが債務不履行を宣言したことでロシア債券を大量に保有していたLTCMは破綻した。これは多国間の金融取引においては、政治によって物事が一転するということだ。

いま世界は大きな変化の中にある。豊富で安価な化石燃料がもたらした過去100年間の繁栄がこれからも続くことはない。この変化を見間違うことなく日本が正しい方向へ舵取りできるかどうか、それは新政権にかかっている。