No.896 早くアメリカと惜別を

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)前議長のアラン・グリーンスパン氏は9月初め、アメリカ経済が今年第3四半期に当初予想の2.5%を上回る3%余りの成長率を記録するとの見通しを示した。

早くアメリカと惜別を

グリーンスパンだけでなく楽観的な観測をするエコノミストは多く、一方で私のように悲観的な見方をする者と、いまアメリカについての観測は大きく二極化している。最悪な時期は過ぎたという者は、ダウ工業株、ナスダックといった株式市場を指しているのだろうが、見きわめなければいけないのはそれ以外の指標である。なぜならアメリカではFRBが率先して市場を操作しているからだ。

アメリカで金利政策を決定するFRBは、昨年からゼロ金利政策をとっている。これは市場に大量の資金を供給するためで、さらに景気刺激策として米国債や政府機関が発行した債券を大量に買い入れている。

トレーダーたちも、もちろんそれを知っている。市場機構を通じて公正に取引がなされると提唱する自由主義経済者たちは、実際はそうではないということを十分承知しているのだ。つまり現実は、市場でFRBが国債を買い入れ、それによって巨額の資金が市場に流れ込む。そして行き場のないお金が株式市場に流入している。これが今日のアメリカの姿なのである。

このためアメリカでは、実体経済にお金は入っていかない。ただ株式市場を膨張させ、その一方で債券市場の価格を縮小させている。つまり一つの市場の回復と、一つの市場の悪化が同時進行しているのだ。しかしアメリカの実体経済が困窮している限り、刺激策による小さなリバウンドはあるだろうが長期的に見て回復のきざしはまったく見えない。海外投資家がアメリカ金融市場から手を引くまで、つまりアメリカが債務危機になるまで、あとどれだけオバマ大統領は小切手を書き続けるのかという話になる。

アメリカの銀行は1ヶ月に1%の割合で貸し出しを減らし、そのため実体経済に必要な通貨量は金融危機以来、減少の一途をたどっている。それは当然である。経済は国民が仕事に就き、給料をもらって消費をしたり借金を返済していくという活動が伴わない限り回復することはないからだ。

今年になってアメリカ国内で95行もの銀行が破綻した。1ヶ月あたり10行以上のペースである。9月の失業統計では失業率が9.8%に上昇したが、10%を突破するのは時間の問題だとみられる。生活が苦しくなれば経済はさらに縮小し、金融分野では巨額の焦げ付きが発生する。アメリカの金融緩和、国債買取の先には何があるというのだろう。

9月末、日本の外貨準備高は過去最高の1兆525億9,800万ドルになったと財務省が発表した。この金額は何を意味するのかといえば、アメリカのサプライのなだれを喜んで吸収しようという世界の中央銀行のなかでも日本は格段の働きをしているということだ。

10月6日、イギリスのインディペンデント紙は湾岸協力会議が中国、ロシア、フランスなどと共に石油取引のドル決済をやめることを計画していると報じた。この動きも確実にドルの地位低下を促すだろう。世界の大きな変化の渦中で日本は、被害を最小にするためにも、アメリカとの惜別を早く宣言するしかない。