『「年収6割でも週休4日」という生き方』という本を上梓し、読まれた方から感想をいただいている。
『年収6割でも週休4日』
アメリカのリーマンショック以降、日本にもその影響は及び、特にアメリカを輸出先とする製造業、その関連企業では厳しい状況が続いている。しかし現在の資本主義が、その仕組みのまま永続することはないと以前から感じていた。それでは、どのような社会の選択肢があるのか、そしてそのために私たち経営者や個人は何をすればよいのか、そのようなことを書いたのがこの本である。
企業経営者としての私の理念や会社で導入している制度だけでなく、私が考える政府がとるべき政策にも言及した。その一つは、「政府が最後の雇用者となって、失業問題を解決せよ」という提言である。
それに関連して、「ベーシック・インカム」についてどう思うかという質問をうけた。それはすべての国民に対して政府が毎月最低限の生活を送るのに必要とされている金額を無条件で支給するという構想である。個人に無条件に支給され、就労義務もなく、他の所得の有無や資産力も問われず、また個人の能力差も問われない。いくつかのバリエーションがあり、ミルトン・フリードマンが提唱している「負の所得税」、C・H・ダグラスが提唱したソーシャル・クレジット(国家が通貨を創造し、その社会的配当を国民の所得にするというもの)などもそうである。
それでも私は、失業者を国家が雇用し、基本的な社会基盤設備から環境関係といった地域を改善するさまざまなプロジェクトに参加させるのがもっとも良いと考える。生活できるお金を支給すれば、失業し、絶望の淵にある人はとりあえず救われるだろう。しかしそのあとの、人々が暮らす地域社会、国家のあり方も考える必要があると思うからだ。
アダム・スミスは「私的利益を求める個人は、あたかも『神の見えざる手』によって導かれるように、公共の利益を実現する」というが、それは現代には当てはまらない。道徳哲学なくして、公共の、すなわち地球をよい方向にみちびくことは不可能だからだ。
従って未来と政策を考えるとき、個人だけでなく地球を考えた制度が必要であろう。ライオンは自分が生き残るために一度に一頭の鹿しか殺さないが、人間は木でも、鉱物でも、食物でも生存に必要以上のものをとってしまう。ベーシック・インカムで生活を保障するだけでなく、環境や農業関連事業など、職と生産物、地球の利益の両方を保証するシステムが必要だと思う。
経済学部では、100円利益をだすために、地球のどこかで資源や木が切られたり、また多くの人がその過程で搾取されることは教えない。所得を保証する代わりに、人々にそれら全体のシステムについて教えることもその一歩であろう。
いま地球は大きな変化を迎えている。単にお金を提供する仕組みだけでなく、コミュニティ、国家、地球を改善するスキームを組み入れるのは、石油減耗によってグローバルからローカルの時代が必ずくるからだ。いままで機械がやっていたことを、再び人間の手で行なう時代がくるだろう。これらの議論が早く政府でなされるようになることを私は期待している。