No.902 デフレ状況の日本経済

昨年11月、政府は月例経済報告で、日本経済は「緩やかなデフレ状況にある」と認定したという。

デフレ状況の日本経済

2001年、物価下落が2年以上続いたとして政府はデフレ宣言を行なった。その2年前の1999年、私は『消費不況・こうして突破する』という本を上梓し、大量生産、大量販売、大量消費、そして大量廃棄の経済である産業革命が限界に達したために、デフレ脱却にむけて産業構造を社会消費型に転換しなければならない、そのためにもアメリカの投機経済に巻き込まれてはならないと主張した。

当時の小渕総理から小泉総理まで続いた自民党政権がアメリカに追随した政策をとり続けたことで日本がどうなったかは、現在の失業率や貧富の格差をみればあきらかだろう。また90年代にニューエコノミーと呼ばれ、活況を呈していたアメリカがどうなったかもいうまでもない。

10年前と今が違う点は、経済を支えている化石燃料が地質学的な限界に到達したことだが、人々とこの点を議論することは容易ではない。なぜなら多くの人は、技術進歩によってもっと効率的な石油資源の活用方法がみつかるか、新しいエネルギー資源が提供されるだろうと信じているからだ。実際問題として、そのどちらもいまだに提供されていないという事実を人々は認めようとはしないのである。

石油産出国だったアメリカは、1970年代に石油ピークを迎えた。それ以降アメリカが、製造業を中心とする経済から金融投機のカジノ経済へと転換していったのは偶然ではない。それと同じことがいま世界規模で起きている。

経済がおかしくなる理由は単純である。資本投資が個人の利益を追求する投資家によって行なわれているためだ。だからこそ、自由市場経済を標榜し、それを他国にも押し付けてきたアメリカ経済が一番おかしくなっているのであり、逆に中国のように、政治や国家戦略を重視して投資が行なわれている国のほうがカジノ経済による悪影響を受けていない。

つまり、日本がアメリカを倣ってとってきた個人の利益追求を尊重した経済では、安定した社会にはなりえないのだ。現在の主流である自由主義経済における「神の見えざる手」によって、結局大部分の国民は困窮を余儀なくされるのである。

化石燃料生産が地質学的な限界に近づくと、エネルギー高騰により生産的な経済活動の利益はますます薄くなっていく。したがって投資家たちは、アメリカがまさにそうであったように設備投資に資金を投じるよりも、金融商品に投資して利益を得ようとする。そのためにカジノ経済が実体経済よりも大きく膨張してバブルとなり、それがはじけたとき実体経済に大きな悪影響が及ぶ。いま日本がデフレにあるのは、カジノ経済のバブルが崩壊し、実体経済、つまり一般国民の生活に及んだためである。

カジノ経済の原因となった金融海賊は、政府からの財政出動と超金利政策でもちこたえているかもしれないが、多くの国民はデフレによる消費の低迷、そして倒産や失業の影響を受けている。政府がいまどちらを救済すべきかは、明らかである。