昨年12月初め、オバマ大統領は新たなアフガニスタン戦略を発表した。2010年夏までに米軍を3万人追加派兵し、2011年夏からはその米軍の撤退を開始してアフガニスタンの治安権限を徐々にアフガン政府に移譲する、というものだ。
アフガニスタン戦略
オバマ大統領は今春以降、アフガニスタンをテロとの戦いの場だとしてすでに2万人以上の米軍を派兵している。この新戦略について2011年の撤退に焦点をあてて報じている記事が多いが、注目すべき事実は現在アフガニスタンにいるおよそ6万8000人の米軍が10万人規模に増えるということである。
ベトナム戦争の再現を懸念する声がアメリカ国内に根強くあり、またすでに苦しい財政のなかからこの派兵で300億ドルもの費用がかかるとされているにもかかわらず、なぜオバマ大統領はこの戦争を推し進めるのか。
『チェンジ』を連呼した初の黒人大統領が誕生したときから、どの党の誰が大統領になっても政府がやることはそれほど変わらないと私は言い続けてきた。共和党でも民主党でも、大した違いはないと。オバマに期待を寄せていた人も1年がたち、ようやく気づき始めたかもしれない。
オバマ大統領は就任後、すぐにキューバのグアンタナモにあるテロ容疑者の収容施設を閉鎖するよう命じたが、いまだに閉鎖されてはいない。依然として200人以上が収容され、拷問を受けている。大統領が命令はしても実行されることはない。同じように、アフガニスタンから撤退すると約束しても、兵器会社がNOといえば大統領はそれに従うしかない。また健康保険のない5千万人のアメリカ人に保険を提供することを約束しても、保険会社がNOと言えば大統領は何もできない。
アメリカが民主主義国家で、国民が選んだ大統領が国を動かしているなどというのは幻想だ。実際、何十年もの間アメリカ政府は国民から徴収した税金を国民の福祉に使わずに戦争に使ってきた。アイゼンハワー大統領がかつて、軍産複合体が社会を危険にさらす可能性を警告したが、まさにその通りになっているのである。
イギリスでは、イラク戦争参戦の根拠とした大量破壊兵器が見つからなかったことから、戦争への関与を検証する「イラク調査委員会」の公聴会が始まった。元国連の査察官が「大量破壊兵器はない」と証言していたのにも拘わらず開戦したアメリカに、なぜブレア首相が従ったのか。そのテロとの戦いとの名の下で始まった戦闘はいまだに終わってはおらず、アメリカではこのような検証がなされることもなくオバマ大統領はアフガン戦争拡大を宣言した。
西と東を海洋に、北はカナダ、近年こそアメリカ離れが進んだとはいえ南米もほとんどが親米国家に囲まれているアメリカ合衆国が、防衛費に世界中の軍事予算を合わせた総額以上が必要なのは、単に軍需産業を潤すためだけである。いまさらだが、オバマ大統領はアメリカ国民ではなく軍需産業のための大統領である。ブッシュやクリントンと何も変わらない、というのはそのことだ。