今年始め、ニューヨークタイムズ紙にアメリカ人の肥満がピークになった、という記事がでた。
米国人の肥満がピークに
日本でも、生活習慣病の原因といわれ、実際にさまざま病気を起こすなど肥満は問題になっている。しかしその程度や割合で突出しているのはなんといってもアメリカだ。しかし記事によると、30年ほど前から増加し始めたアメリカ人の肥満が、過去5年間ほぼ横ばいになったという。
横ばいといっても、成人の34%、子供の17%が肥満というのだから『ファット・ネーション』には変わりはない。ちなみに肥満の定義は、ボディ・マス指数(BMI)が30以上で、25以上は過体重とされる。横ばいになった理由は、肥満への意識が高まり、食事などの生活習慣を見直す人が増えたためと見る人がいる一方で、ただ単に生物学上、人間が太れる限界にまで達したためではないか、と言う医師もいる。私が最後にアメリカを訪れたのは2004年だが、たしかにその肥満の度合いは桁違いで、日常生活に支障をきたすと思われる人をみると確かに人間は無限に大きくなることはできないのだからリミットに達したという見方もできる。
なぜ人は肥満になるのか。体格が良いことが富の象徴だという文化もあるが、欲しいだけ食べられるという点ではそうかもしれない。しかし今のアメリカにこれは当てはまらない。2008年のデータでアメリカの貧困率は13.2%、約4千万人が貧困基準を下回っている(アメリカの貧困基準は、4人家族の世帯で年収約200万円以下)。これほど多くの人が困窮している現状で、肥満は富の象徴ではない。逆に、貧しい人ほど欲しいものを食べることができずに肥満になる。
限られた所得で多くのカロリーをとろうとすれば安い食べ物を買うしかない。そして残念ながらたいていそれは「ジャンクフード」と呼ばれる、高カロリー、高脂肪、高糖分で、ビタミンやミネラル、食物繊維をほとんど含まないものだ。その常食が肥満につながっている。その肥満が頭打ちになったのは、あまりにも貧しくてそのジャンクフードさえ十分に食べられなくなった、と見ることもできるだろう。食費を減らさなければならないとあれば、それが意図したことでなくても結果的に減量につながるからだ。
これに追い討ちをかけるのは石油の代替燃料であるバイオエタノールで、アースポリシー研究所のレポートによればアメリカでは昨年、とうもろこし収穫高の4分の1が自動車の燃料にされたという。その量は3億3,000万人の1年分の消費量に相当する。
アメリカは世界の穀物輸出の半分を供給し、日本はそれに大きく依存している。世界のとうもろこし価格は2006年から急騰し、穀物を輸入に頼っている貧しい国々はすでに大きな打撃を受けている。金融危機で高騰は止まったものの、長期的な平均を上回る価格のままである。アメリカの自動車(燃料)と日本人、どちらがアメリカの穀物を手にできるか、または今後の穀物価格がどう日本人の生活に影響を及ぼすか、どちらも答えは明らかだ。
アメリカで起きていることはほとんど必ず、日本でも起きる。アメリカのように貧富の格差が広がってきた日本で、メタボに悩む人々が食費を切りつめ、肥満を解消できるようになると喜んではいられないだろう。